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「お待たせしました」
「いや、全然」
同僚に、お疲れ様、早く上がりな、と見送られ、千都香は急いで裏口を出た。ぺこりと頭を下げると、毅は笑って手を振った。
「毎日寄って頂いて、その上送って頂いて……すみません。ありがとうございます」
「こちらこそ、済まない。……迷惑じゃ無いかな、連日寄って」
「いえ、迷惑なんかじゃないです、ご来店頂けてありがたいです!……でも、新宿だったらたくさんお店有るんじゃ無いですか?」
毅は以前から、何かついでが有れば店に寄ってくれては居た。しかし今回は、連日だ。来る時間がラストオーダーぎりぎりとは言え、千都香を待てば遅くなる。しかも、ここに寄る前は、ここよりずっと飲食店の多い街に居るのだ。
「あー……」
千都香が聞くと、毅はこめかみの辺りを掻いた。
「……慣れない場所で、一人で店に入るのが、どうも苦手で……落ち着かないんだ」
「でも、わざわざ降りて下さってるんですよね?なんだか、申し訳無いです」
毅の自宅までは、ここから一時間近く掛かる筈だ。しかも、新宿からは一本で帰れる。電車を途中で降りるのは、時間の無駄だろう。
「いや。千都香さんに会えると、ほっとするし、疲れも吹っ飛ぶって言うか……顔を見られるだけでも、わざわざ降りる価値が有る」
(ふーん……)
毅が力説するのを聞いた千都香は、意外に思った。
(……知り合いが居てほっとできるから、わざわざご飯食べに降りるって……立岩さんて、気が弱いだけじゃなく、人見知りでもあるんだ……)
見た目だけで言うと、ガタイの良い毅より、ひょろっとした壮介の方が人見知りしそうに思える。しかし、壮介はあまり人見知りをしない──と言うか、千都香が最初に会った時の態度からも分かる通り、人を人とも思わないと言う方が正しいかもしれない。
壮介や和史と三人で居るとそれほど感じないが、毅一人だけと接していると、意外な面に気付く。面白いなあ、と千都香が思っていると、毅は更にぼやいた。
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