一途さの功罪

4/12
前へ
/313ページ
次へ
   * 「お待たせしました」 「いや、全然」  同僚に、お疲れ様、早く上がりな、と見送られ、千都香は急いで裏口を出た。ぺこりと頭を下げると、毅は笑って手を振った。 「毎日寄って頂いて、その上送って頂いて……すみません。ありがとうございます」 「こちらこそ、済まない。……迷惑じゃ無いかな、連日寄って」 「いえ、迷惑なんかじゃないです、ご来店頂けてありがたいです!……でも、新宿だったらたくさんお店有るんじゃ無いですか?」  毅は以前から、何かついでが有れば店に寄ってくれては居た。しかし今回は、連日だ。来る時間がラストオーダーぎりぎりとは言え、千都香を待てば遅くなる。しかも、ここに寄る前は、ここよりずっと飲食店の多い街に居るのだ。 「あー……」  千都香が聞くと、毅はこめかみの辺りを掻いた。 「……慣れない場所で、一人で店に入るのが、どうも苦手で……落ち着かないんだ」 「でも、わざわざ降りて下さってるんですよね?なんだか、申し訳無いです」  毅の自宅までは、ここから一時間近く掛かる筈だ。しかも、新宿からは一本で帰れる。電車を途中で降りるのは、時間の無駄だろう。 「いや。千都香さんに会えると、ほっとするし、疲れも吹っ飛ぶって言うか……顔を見られるだけでも、わざわざ降りる価値が有る」 (ふーん……) 毅が力説するのを聞いた千都香は、意外に思った。 (……知り合いが居てほっとできるから、わざわざご飯食べに降りるって……立岩さんて、気が弱いだけじゃなく、人見知りでもあるんだ……)  見た目だけで言うと、ガタイの良い毅より、ひょろっとした壮介の方が人見知りしそうに思える。しかし、壮介はあまり人見知りをしない──と言うか、千都香が最初に会った時の態度からも分かる通り、人を人とも思わないと言う方が正しいかもしれない。  壮介や和史と三人で居るとそれほど感じないが、毅一人だけと接していると、意外な面に気付く。面白いなあ、と千都香が思っていると、毅は更にぼやいた。    
/313ページ

最初のコメントを投稿しよう!

168人が本棚に入れています
本棚に追加