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「……梨香さんにも、随分前に釘を刺された。『千都香に関わるな』と」
「っは!?」
雪彦はそれを聞くと同時に、躊躇無く左手で男を殴った。
「っ!」
「あんた、『先生』の方かあ!」
壁にぶち当たって床に崩れた『先生』は、なにやら苦しげに呻いている。痛いのと呼吸が出来なかったのとの両方が理由だろう。雪彦はしゃがんで『先生』を観察した。
「……ぅ……」
「……んー、鈍ったなー、俺……」
手加減したつもりは無いが、久し振りなので一撃では残念ながら救急車騒ぎにはならなさそうだ。
「先生」がげほげほ咳き込んでいるのを見て、雪彦は襟元に手を掛けた。
「ちょっと、ごめんなー?汚すと修繕費引かれちゃうから、さあ!」
「ぐ?!」
壁にもたれた「先生」を床に引き落とす。
壁は凹凸の有る白のクロスだが、床は茶色のフローリングだ。血が付くなら壁より断然床が良い。後始末が楽だ。
「おーい?俺の言ってること、聞こえるー?」
「う……」
意識は有る、骨はイってなさそうだし、歯も折れてなさそうだ。
幸か不幸か、この位なら全然喧嘩のレベルだろう。顔は腫れるだろうし口が切れて鼻血が出ているが、問題無い。よくある事だ。
「分かってるー?あんたのが『毅さん』よりも、一億倍位罪が重いよー?」
「……」
返事は無いが、動いては居る。雪彦は勝手に聞こえている事にした。
「ちぃ姉を泣かせてんのは、あんただ」
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