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新宿三丁目駅には、複数の路線が乗り入れている。それぞれの乗り換えだけでなく、近くに有るJR新宿駅に向かう人も多いので、地下通路は平日でもそれなりに混雑していた。
「あ。ちょっと待って、ちぃ姉」
夕方に差し掛かって少しずつ人が増えて来た通路から自動改札に入ろうとした千都香は、少し手前で雪彦に止められた。
「なあに、ゆき」
千都香と雪彦は、新宿のデパートに来ていた。愛香の進級祝を選ぶのを手伝って欲しいと、雪彦が千都香に頼んだのだ。
現在居候中の城山家からデパートの有る新宿三丁目界隈までは、電車が直通で乗り入れている。なので、新宿の一番混んでいる辺りは通らなくて済む。
千都香は梨香と雪彦の家に転がり込んで以来、ほとんど外に出ていない。そろそろ普通に生活しないと、新居も探せないし就職も出来ない。そう思っていたので、デパートに雪彦同伴で出掛けるというのは、ちょうど良いリハビリだった。雪彦も、そのつもりも有って誘ってくれたのだろう。
ありがたいとは思いながらも、久し振りの都心への遠出は少々疲れた。ラッシュ前に電車に乗りたいと思っていた千都香は、雪彦に止められて少しだけ不機嫌になった。
「あのさあ。新宿駅から、始発に乗って帰らない?」
「え」
雪彦の言葉で、ますます眉間に皺が寄る。
城山家の有る私鉄の駅までは、新宿駅からは始発が有る。新宿三丁目から乗るのは地下鉄で、それが私鉄に乗り入れているのだ。
「ここから乗っても、座れないし。新宿からなら座れるよ」
「そうかもだけど……その分、歩かなきゃいけないじゃない」
今までなら、そのくらいはさっさと歩いたのだが。
……情けない。
千都香は自分が言った言葉で、だらけすぎた生活のツケが来ている事に気付いて、苦笑した。
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