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地上に出てしばらく歩いたあと、雪彦は飲食店が何店か集まっているビルの中に入った。
エスカレーターで地下に行き、フロアの案内図を見て左手に進む。
突き当たりに、漆喰の白壁を丸窓障子と黒の腰壁で装飾した、落ち着いた雰囲気の店が現れた。
「いらっしゃいませ」
「予約した城山ですが」
「お待ちしておりました」
どうぞ、と奥に通される。
「なんか、ゆきにしては大人っぽい店だね……」
「あの近くで、和風の夕ご飯が食べれる店で探したんだけど……良いでしょ?和食。胃に優しそうだし」
着物風の物を着た店員に案内されながら、ひそひそ話す。店内は全体的に黒っぽくてやや暗く、廊下のところどころに和紙でシェードを作った様に見える明かりが配置されている。
入り口近くのカウンター以外は全て個室になっているらしい。いくつかの部屋からは、大勢だとか二人だとかの、人の声のさざめきも聞こえた。
「予約までしたの?」
「だって、混むじゃん」
いつの間に、と思ったのだが、確かに混む時間になってしまってうろうろ探し回るより、さっさと決めてしまうのは賢い。
「こちらで御座います」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
和風だが、椅子にテーブルの部屋だ。奥側がソファの様に繋がっているベンチシート、手前に二脚椅子が置いてある。靴を脱がなくても上がれるのは楽で助かる。
雪彦が手前の椅子に座って、千都香は奥の席に座った。
「……何にする?アルコール飲む?」
案内してくれた店員が一旦下がったところで、雪彦がテーブルにメニューを広げた。
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