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「なんで」
「……久し振り」
「ちょ、早くね」
思わぬ再会の言葉に、猛然と肉を片付け始めた雪彦の呟きが微妙に被った。
「ゆきっ!?」
「ふぁひ?」
千都香は、雪彦を睨み付けた。
雪彦は、竹串の焼き鳥にかぶりついてわしわし咀嚼しながら、二つ折りにした海苔で包まれた明太お握りを片手に持っている。
……驚いている様子は、無い。
「知ってたの?」
「引っ越しの日に会ってー、な……か良くなって?謝りたいって言われたから、呼んだ。」
雪彦は飄々と言うと串に残っていた焼き鳥を全て口に入れ、お絞りで手を拭いた。
「騙したの?!ゆき!!」
「人聞き悪いなぁ、ちぃ姉。俺達だけって言ってないじゃん」
焼き鳥を片付けた雪彦に言われた千都香は、立ち上がって荷物を持った。
「帰る!!」
そうは言ったものの、帰るには扉を出なくてはいけない。その前には壮介が立っている。そちらに向かって歩くのは、無理だ。
「良いの?」
「何がっ」
お握りを物凄い速さで減らしつつある雪彦は、お茶を取って飲んだ。
「このまま帰って、また泣くの?」
「なに」
「まなちんが、心配してた。泊まったとき、ちぃ姉泣いてたって」
絶句した千都香を見上げながら、雪彦はお握りの最後の欠片を口に放り込んだ。
「ごめんね。ちぃ姉のお願いとまなちんのお願いなら、俺はまなちんのお願いを聞く」
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