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「お待たせ致しました。生搾りレモンスカッシュです」
「え?」
店員が、千都香も雪彦も頼んだ憶えの無い物を持って入って来た。
「ありがとう。ここに置いて下さい」
「えっ?!」
千都香は目を疑った。
壮介が、ビールでは無い物──アルコールですら無い物を、頼んだらしい。
「うそっ?!」
店員が去るのを呆然と見送ったあと、我に返ってメニューのドリンクのページを捲る。「普通のビール」も、メニューにはちゃんと載っている。
「先生っ?!ビール、ちゃんと有るじゃないですかっ!?」
「ああ、有るな。」
突然現れて、レモンスカッシュなどという有り得ない飲み物を頼んで平気な顔をしている壮介に、千都香の感傷も遠慮も、全て吹っ飛んだ。
……訳が分からない。
どういうことか説明して欲しい。
そう思って壮介を見ると、壮介も千都香をじっと見た。それだけでなく、更に謎の行動に出た。
壮介はレモンスカッシュのグラスを手に取って、挿さっているストローを無視してグラスから直接飲んだ。それだけでなく、千都香が細かく分けてしまっただし巻きの皿を勝手に手に取ると、ちまちました欠片を全部食べた。
「え!?」
「ちょ?!」
壮介の奇行に、雪彦が引いている気配を感じる。しかし千都香は疑問や不審を通り越して、壮介が心配になって来た。
「先生っ、ほんと、どうしたの?!何か有ったの?……変ですよ、今日っ!」
「……そんなに変か?」
涙目になりながらうんうん頷くと、壮介は「そうか」と呟いて、レモンスカッシュをグラスからじかに飲み干した。
「千都香。」
「はいっ?」
「俺と、結婚してくれないか」
「ぇ」
……今、何か。
聞こえた……だろうか。
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