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「もう、ちぃ姉を泣かせんのはやめて。」
「うん。済まなかった。約束する」
約束と言ってくれたのが嬉しくて、抱き付いた手に力を込めると、抱き返される。いつもの会話の様なやり取りが、言葉ではなく全身で交わされる。その甘い幸福感に、千都香はゆるゆると満たされた。
「……あと」
雪彦はそこで言葉を切った。
「不本意ながら、結果的には協力したみたいになっちゃったけど……あんたとちぃ姉の事には、基本的には俺は反対」
「ゆ」
「そうだろうな」
反論しようとして、壮介に遮られて止められた。
雪彦は、最初から壮介に難癖を付けていた。アレルギーの件で壮介への「信用出来ない」という雪彦の評価はほぼ確定してしまってはいたが、ここしばらくの自分が無駄に落ち込まなければ、もう少し印象が良かったのではないか。そう思っても、もう遅い。千都香はきゅっと唇を噛んだ。
「ごめんな、大事な『ちぃ姉』の相手が俺で。けど、もう泣かせないって約束したからな。俺で我慢しといてくれると助かる」
「……なんでそうなるんだよ」
不満げな雪彦の言葉が、終わるか終わらないか。壮介が頭の上で、ふっと笑った気配がした。
「さっき聞いてたろ?俺が消えたら、こいつは確実に泣く」
「……自慢かよ……」
「でもないけどな。単なる事実だ」
千都香の事で雪彦と言い争っている筈なのに、何故か壮介は楽しそうだ。雪彦が不機嫌なのと対照的で、千都香はこっそり小さく笑った。
「……分かってるかもだけど、うちの姉ちゃんは俺なんか比べものにならないくらい、大反対だから」
「ああ。分かってる」
「あんた、本っ当に、分かってんの?」
飄々とした返事に、雪彦が噛み付いた。何故かは分からないが、先程までよりイラついている。
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