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この店の平日の個室利用の時間制限は、二時間半だ。ラストオーダーは三十分前と言われていたので、二時間経ったと言うことだろう。
「なんか食うか?」
「……私は、もういいかな」
食が細くなっているし、壮介が来る前に多少食べている。さんざん泣いたり喜んだりもして、精神的にも何も食べられそうにない。
途中から来た壮介は、ソフトドリンクしか飲んで居ない。何か頼むかと思ったのだが。
「すみません。もうすぐ出ますんで、これで結構です」
「かしこまりました。お帰りの際は、こちらの伝票をお持ち下さい」
店員は伝票をテーブルの隅に伏せると、会釈して去って行った。
追加しなくても、雪彦が相当な量を食べている。女性を含む三人グループの注文量としては、妥当だろう。
「先生?」
「何だ?」
僅かに残った食べ物と飲み物を片付けながら、不思議に思って聞いてみる。
「飲まないの?ビール」
「飲まない。」
「どうして?話は終わったんだし、追加しても良かったのに」
大事な話をするためにアルコールを飲まなかったのだとしても、もう話は済んだのだ。遠慮する必要は無い。
「お前の言うこと聞くことにした」
千都香の疑問に、壮介は決まり悪げに答えた。
「え」
「飲むなら食う、飲み過ぎない、飲んでなくても出来るだけ飯は食う」
いちにいさん、と子どもの様に指を立て、真顔で唱える。それが妙に可愛らしく見えてしまうのは、惚れた欲目というものだろうか。
「俺には、マイナスしか無いんだ。戻って来てやっても良いと思える様に……これからは、居てやっても良いと思える様に、出来る努力はしねぇとな」
「……大丈夫ですよ?」
「ん?」
「だって、初めて会った最初から、マイナスだったじゃないですか」
「……それ、大丈夫って言うのか……?」
憮然とする壮介を見て、千都香はくすくす笑った。
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