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玄関扉の前で、千都香は深呼吸をした。
壮介が鳴らない様に段ボールで止めていて、そんなんじゃダメだと清子と二人で抗議して剥がしたチャイムを、じっと見る。
(……鳴らす?でも、他人行儀?……って言うか、五月蝿ぇよ!!って、怒鳴られる?)
千都香は、しばらく迷った。すると。
「ぅわっ!?」
「お前……何やってんだ?」
内側から扉が開いて、壮介がぬっと顔を出した。
全く予想して居なかった。驚きのあまり、両手で持っていた荷物を地面にを落としてしまった程だ。
「びっ……くりしたぁあ!!やめてください、心臓止まり掛けましたっ!!」
「お前がぐずぐずしてるからだろうが。入れ、ほら」
壮介はそう言って、ひょいと千都香の荷物を持つと中に引っ込んだ。扉は、開けたままだ。
「……はいっ。」
千都香は開け放たれたままの扉を、スキップをする様な足取りでくぐった。
*
「こんにちはー!お邪魔します!」
踏み込んだ玄関の全く変わらない愛想の無さに、頬が緩む。千都香が壮介の仕事場に来るのは、アレルギーになる前以来だ。靴を脱いで上がり框に上がって揃えて、奥へ向かって、向きを変えた。
「待て。」
立ち上がろうとしたところで、壮介がずい、と手のひらを向けて来た。まるで、犬への命令である。
「はい?」
「お前は今日から、来たらまず納戸で身支度をする様に。」
「……はい?」
「ここだ、ここ」
壮介は、二つ目の命令が飲み込めていない千都香に向かって、がらりと小部屋の扉を開けた。
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