一途さの功罪

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   *  壮介は部屋と廊下を仕切る扉の柱にもたれながら、千都香のする事を眺めていた。  最初から着替えるつもりで来たのか、挨拶だけのつもりで来たのか、今日の千都香は、珍しくスカート姿だ。ちょこんと床に座っている千都香の周りに、水色の花柄の薄い生地がふわりと花のように広がっている。  バッグの中からは、チャック式のビニール袋がいくつか取り出された。  大きいものの中には洋服が、小さいものの中には何やら小物が入っている様だ。 「着る物は、基本の長袖と長ズボンに、前から着けてるエプロンです」 「ああ。」  大きな袋の中から取り出された布の山にざっと素早く目を走らせて、壮介は頷いた。  よく見なかったのは、なんとなくじっと見てはいけない様な気がしたからだ。念入りにチェックするとしても、着た後で十分だろう。……着た後ならば何でもない事なのに、何故抜け殻だと(やま)しく感じてしまうのだろう。 「長袖は、寒くなったらハイネックにしようと思うんですけど……今の時期だと暑いから普通のシャツで、首にバンダナを巻いてから着ます。バンダナにしたのは、スカーフだと洗濯しにくいからです」 「うん。」  ハイネックとは何なのか、スカーフとバンダナはどこが違うのか……よく分からない事がいくつか有ったが、とりあえず頷いて置いた。その辺は、自分が口を挟むより、千都香に任せた方が良い。 「で、それを着る前に」 「……ちょっと待て!!」  壮介は、千都香を全力で止めた。 「はい?」 「着んだよな?!なのに、なんで脱ぐんだよ!!」  千都香は(かぶ)りのブラウスを脱ぎ掛けたまま、きょとんとした顔で止まった。 「え?別に、下にもちゃんと着てますよ?」  確かに、下に紺地に花柄のタンクトップを着ている。  真夏ならば、それで出かけてもおかしくない……と言おうと思えば言えなくもない程度の、下着には見えないデザインである。
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