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「……何ですか?」
邪魔するな、と言いたげにこちらを見てきた千都香の脚は、くるぶしまで黒いスパッツで覆われていた。それを少し捲り、靴下も捲ると、出来た隙間に千都香は丁寧にクリームを塗った。
そして捲った部分を戻し、唖然としている壮介の前でスカートの下に長ズボンをはき、するりとスカートを脱いで見せた。
「どうですか?」
「……テーブルクロスを引っこ抜く隠し芸かよ……」
壮介は、ぐったり疲れた。
単に、漆かぶれを防ぐ為に千都香が考えた服装の確認をしただけなのに、どうしてこんなに疲れるのだろう。
「あとは、眼鏡と、マスクです。眼鏡は花粉症用の、顔との間に隙間が出来ない眼鏡です。マスクは……なんか凄い奴?です。」
「なんか凄いって、何が凄いんだよ」
投げやりに聞く。
「『有害物質扱うんなら最低でもこんくらいしとかなきゃ』って、ゆき……学生してる従弟が、くれました」
「いとこ……」
壮介の眉間の皺に構わずに、千都香は眼鏡とマスクを着けた。
マスクは、一枚300円位するらしい。一包みではなく、一枚が、だ。
雪彦が、「ちぃ姉また漆のおっさんとこ行くの?!あんな目に遭ったのに、なんでまだ辞めてないの!?」とぶつぶつ言いながらも譲ってくれたのだ。
このマスク、学校で実験の時に使っているそうなのだが、何の実験をしているのか、千都香は知らない。一度内容を聞いたものの、何を言っているのだかさっぱり分からなかったのだ。
「出来た!あとは、いつもの手袋です……どうですか!」
「立派な不審者だな。」
完成!!と胸を張った千都香に対して、間髪入れずに非情な評価が下された。
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