偽り

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「千都ちゃん、これ、次どうするの?」 「はーい、今行きます」  千都香がアシスタントに復帰してから、一月余りが経った。  試せ、と壮介に言い放った後。  初日に装備してきたあの格好で、千都香は壮介宅での事務作業や手伝いにも、カルチャースクールのアシスタントにも、休む前と変わらずに復帰している。  前と違うことといえば、例の重装備と、壮介に指示を仰がなくても良い作業の時は納戸か台所でパソコンを使うようになったのと、スクールの初日に、漆かぶれで休んだ事をきちんと説明して挨拶した事だ。  漆かぶれの挨拶の件は、千都香自身は黙っていた方が良いのではないかと思っていた。休まなくてはいけないほど千都香がかぶれた事を聞いたら、金継ぎをすることが怖いと思う人が出て来るかもしれない、と思ったのだ。  だが壮介は、「やれ」と命じた。正確には、「お前、試せっつったよな?なら、ちゃんとやれ」と言われたのだが、それで辞める生徒が出たら、困るのは壮介である。そのことを指摘すると、「それはお前が心配することじゃねえ」と聞く耳を持たず、やれと言ったことを曲げる事は無かった。  結果的には誰も辞めず、漆の特性についてもより具体的に分かってもらう事ができ、かえって体調を気遣われた程で、千都香は心底ほっとした。 「むしろ、千都ちゃんがかぶれるタイプで良かったかも!経験者が居れば、何かあったときにすぐ分かるし、相談できるし!」 「そうよねー。肩凝りだって、凝らない人には凝る人の辛さが分からないじゃない?先生だけだと『あーそうですか俺は分かんないんで皮膚科行って下さい』とかで済まされそうよねー」  そこまで言って笑い飛ばしてくれた人々も居て、千都香は感謝半分驚き半分、おばさ……ではなくお姉様方の逞しさに、舌を巻いたほどだった。
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