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「はぁ~……」
「平取ちゃん、また溜め息~。」
バイトの遅番後の、更衣室。隣のロッカーから、からかい半分の声が聞こえる。
「あ……すみません……」
「上がってから十分も経ってないのに、もう三回目だよー。どうかしたの?」
木村は心千都香に配げな顔を向けながら、全く人目を気にせずにばさばさと制服を着替えている。それにつられて、千都香ものろのろとブラウスを脱ぎ始めた。
早く着替えないと取り残されて、施錠する店長に迷惑を掛けてしまう。
「えーと……ちょっと、困ってる事が有って……あ、ここの仕事でじゃ、ないですよ!」
このビヤホールは、スタッフも客もどこか陽気で、雰囲気が良い。失敗する事も有るが、溜め息の種になるほどの困り事が発生する事は無い。
四回目の溜め息を吐きながら、スカートを脱いで私服に穿き替える。木村は既に着替え終わって、化粧直しに入った。かなり、差を付けられている。
「ファミレスにでも、寄って帰る?」
口ごもる千都香に、木村の逆側でロッカーの扉を閉めていた田仲が言った。
「わ!いいですね、オールですか?!」
目を輝かせる木村に、田仲は苦笑した。
「あなた、幾つだと思ってるの?学生じゃ無いのよ。終電までには帰ります」
「えー」
「当たり前でしょ。……さ、行きましょ、平取さん」
「えっ」
やっと木村に追い付きそうになっていた千都香は、田仲の言葉に面食らった。
「うんうん!悩み事は、口から出すに限る!」
「えっ、え」
木村まで、行く気満々の様だが。
千都香は明日休みだけれど、二人は違うのでは無かったか。
そう思ったものの押し切られ、気が付いた時には近くの二十四時間営業のファミリーレストランのテーブルに、二人と向かい合って座っていた。
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