第一章

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◇ ◇ ◇ 「ぷ…ぷぷ……」 「ぷ…かいちょ……ぷぷ…」 「「あはははははは!!!」」  大声で笑う双子を後目に、成瀬道鷹は珍しく素直に驚いた表情をしていた。 「会長、叱られちゃいましたねぇー」 「ああ、そうみたいだね。……侑李、彼の名前、何と言ったかな?」 「ちゃんと自分で言ってましたけどー?小野寺です。小野寺雪弥」  小野寺雪弥。  神園暁斗は、同じようなおかしな変装をしていても、キスをした際に本来の顔立ちがこの学園でもトップクラスに入るだろうことが分かった。  家柄、学業成績も申し分なし。  だからその他色々あるとはいえ、目立つ言動や馴れ馴れしい態度については、学園生徒たちの間ではあくまで許容範囲に収まるものと判断した。  変装や他人への態度を改めないが故に、親衛隊などから目の敵にされている件については知らない。  そこは彼自身の責任における問題だろう。  わざわざ世話をしてやる義理もないので、他のメンバーに扱いの方向性を丸投げしていた。  一方、彼は?  特待生でもない外部生が、ことごとく成績トップを独占していると聞いた時は、確かに多少驚いた。  だが、勉学など努力の世界。まあ可能性は低くとも、有り得ない事ではなかったろう。  委員長からの直接指名でついたという風紀副委員長が、平均すら切った外見をしているというのは、昨年一時期この学園の話題をさらっていた。  いくら実力主義といえど、かの風紀委員会。  これまで欠片も人気の無かった生徒が委員長の側近たる立場につくなど、相当に反感を煽ったはず。  しかし結局、それらが表面化することは無かった。  もちろん、本人がその有能さを証明してきたのもあるだろうが、それだけで収まる程簡単ならば、自分たち役員や風紀委員はこれほど苦労していない。 ―――どうやらあの男が動いたらしい。  そう悟った時には、随分不審に思ったものだ。  万人に厳しく、残酷な程優しい。それが彼、在原伊智だ。  身内だからと贔屓などせず、たとえ個人的に親しくしている相手だろうが、使えなければ委員会にすら入れなかった彼が。  今度の副委員長はよほど優秀なようだ。  気が向いた時にでも様子を見てみるかと考えてから暫く。ふと思い出して今日こうして呼んでみたが。 「なかなか面白い子かもしれないね」  呟きつつ、ふと笑みをこぼす。 「会長~、目ェ怖いですよー」  気になる事が一つ増えた。
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