「君は本当に朝が弱いんだね」
尼寺倫花の朝はアラームではなく隣人の声から始まる。
「誰のおかげで皆勤賞を取ってこれたと思ってるのかしら?」
ところどころ飛び跳ねた髪をガシガシと掻きながら彼女の説教じみた話に耳を傾ける。その節は本当に感謝している。しかし耳にタコができた話を寝起きがてら聞く必要はないと判断した倫花は適当に相槌を打ちながら背筋を伸ばした。
「規則正しい生活も学生の義務なんだから」
「分かってるよ」こちらに非があるのは認めるが、言われっぱなしも癪だったので「うるさいなぁ」とささやかに抵抗してみた。
「うるさいって何よぉ!」
逆効果だった。顔を赤くして憤りを露わにする、少しお節介なこの少女。彼女とは保育園からの腐れ縁で俗に言う幼馴染というやつだ。
後ろで結った艶やかな黒髪に縁どられた童顔にそつなく収まった目鼻立ち。皺ひとつない端整な制服で包み込んだしなやかな体躯は異性の理想であり同姓の憧れと言っても過言ではない。
彼女の友好的な性格と相俟って学年でも一、二位を争う人気を誇っており、異性からも幾度となく想いを告げられているらしいが、それが成就できた者は誰一人いないようだ。
その事実にホッとする自分の正気を疑いそうになる。
おそらく自分は〝レズビアン〟なんだな、と最近になって自覚してきた。
それはさておき、ここは素直に謝っておくのが無難だろう。
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