腕を拘束された尼寺倫花は華奢な身体を乗り出して、絶望のいろを浮かべる幼馴染の安否を確認する。
豊かな胸が上下に動いているので死んではいないが、心身共に衰弱しているのは明確だろう。
今はぐったり項垂れて虚空を眺めているが正気に戻れば自決しかねない精神状態を患っている可能性が無きにしも非ず。
自分の胸と顔を交互に見やるリーダー格の男の言葉が脳内で再生される。
「お前は良かったな、レズ女。俺達は巨乳にしか興味ねぇんだ」
うるさい、と心の中で吐き捨てた倫花は亀裂の入ったスマホをしなやかな脚で手繰り寄せ、足の指を器用に使い病院へ救護を要請した。当然だが、病院側から現在地を問われた際に焦燥に駆られていた彼女は現在地を上手く伝えられずにいる――なんて失態は犯さなかった。
曲がりなりにも十六年、この区域で暮らしているのだ。そのため無意識のうちに構造を把握しており、さながら記憶媒体に根を張っている状態で頭に潜伏し続けている。故に、度忘れなどありえない。
救急隊員は数分ほどでこちらへ向かえるという。ならば、後は到着を待てばいい。
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