間もなくして救急車が旧校舎の前に駐車した。隊員達の対応は丁寧で、それでもって素早く幼馴染を担架に乗せて車内へ連れ込んだ。流れるような手際は、やはりプロフェッショナルなんだなと改めて認識する。
「君も乗っていきなさい」
すると隊員が不意に話しかけてきた。怒りで周囲に気を遣えずにいた倫花の心臓が飛び跳ねる。
「怪我してるんだろう?」
「あ……」
ざっと身体を検めると、シャツに血が滲んでいたり肌を紫色の斑状に腫らしている。正直、痛みなんて隊員に言われるまですっかり忘れてしまっていた。
隊員の提案に一時は戸惑ったが、断る理由がない。相手が専門職なら尚更だ。それに一秒でも時間が惜しいし、何より彼女に付き添っていてあげたいという思いが倫花に唯唯諾諾を選ばせた。
被害者二人を救急車に乗せて、警光灯を赤く染める。
搬送時、倫花は毛布を掛けられて横たわる幼馴染を俯瞰した。明朗快活で喜怒哀楽が豊かだった彼女の表情に生気はなく、毎日が澄んでいた瞳はすっかり濁ってしまっている。人形のように一点を見続ける、その痛々しくて哀れな姿。
傍観しかできなかった無力な自分へ怒りがこみ上げてくる。
「畜生……!」
少女の怒気を滲ませた呟きは、住宅街に反響する警報の音によって掻き消された――……。
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