ほどなくして、事情を聴いた彼女の両親が病院へ飛んできた。
「娘は助かるんですか……!?」
彼女の父(倫花の義父)が医師の胸ぐらを掴みかからんとする勢いと憔悴した形相で尋ねている。医師は僅かに身を引き、冷静に答えた。
「命に別状はありません」
二人に安堵の笑みが浮かぶ。しかしそれも一瞬の出来事だった。医師は極めて深刻に話を続ける。
「ただ精神状態が極めて不安定で危険な状態です」
「それってどういう……」
「はい。尼寺さんの話によれば、娘さんは強姦被害にあったらしいんです、誠に遺憾なのですが、今日は面会は控えて頂きたいのですが……」
まるで信じられない、そう言いたげな二人の視線が一斉にこちらを向いた。
「倫花ちゃん、それ本当なの……?」
今にも泣き出しそうな彼女の母(倫花の義母)の質問に、倫花は黙って頷いた。
「十中八九、原因はそれかと思われます。最悪の場合、自ら命を投げ出す恐れも考えられるでしょう」
医師の淡々とした説明に、ついに義母が両手で顔を覆って泣き出した。義父が彼女の肩に手を置いて慰めているも、こちらも相当我慢しているようでその声は震えている。
「それでは私はこれで……」
「失礼します」医師は申し訳なさそうに首を垂れて、その場から立ち去った。その言動は親族にとっては冷酷に思われるかもしれない。しかし彼を頼る患者がいる以上、健康な者にいつまでも手こずっている場合ではないことくらい理解している。
理解しているのだが――……。
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