明朝、四時五十五分。重い腰を上げた倫花はひどく疲れた顔で階段を上っていた。というのも、この病院は屋上を除けば六階まで存在し彼女の病室が二階にあるからだ。
通路の突き当りの角を右に折れて四つ先の病室に彼女がいるはずだ。そして倫花が角を折れた、その直後だった。
「いっぎぃぃ……ぁああああ!!」
突然、とても人間の声とは思えない奇声が通路に響き渡った。それは四つ先、つまり幼馴染が療養されている二〇四号室が音源だと悟った倫花は、壁に掲示された〝病院の中では走らないで下さい〟という注意を促す紙を無視して疾走、そして荒々しくスライドドアを開けた。
「……ッ!?」
目前の光景に、彼女は思わず呼吸を忘れてしまった。
無理もなかった。幼馴染がくすねたであろう出刃包丁を自身の腹部に突き刺していたのだから。
純白だったシートは抉り出した臓物で赤黒く汚れている。形容し難い痛々しい姿に吐き気を催したが、吐いている場合ではないと自分に呼びかけ必死に堪えた。
「落ち着いてッ! やめてッ!」
倫花は幼馴染の手を抑えて何とか止めようと試みる。しかし狂気に呑まれた彼女の力は異常に強く、その手を緩めてはくれない。綱引きのように包丁を引っ張り合うたびに、ぱっくり開いた腹に手が触れ、瞬く間に倫花の手は血みどろと化した。
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