「やめてっ……たらぁッ!」
ようやく彼女から包丁を奪い取り、ぶらん、と垂れたナースコールを押した。数秒後、駆け付けた年若い看護師の悲鳴が病室へ轟いた。叫ぶという事はまだ経験の浅い看護師に違いない。その後に増援を受けた医師と数人の看護師が部屋にずかずかと入って来た。
皆の反応は声を上げるか否かで、揃って一瞬の躊躇いがあった。
ベッドの上で目を見開いて倒れた患者。
さばいた魚のように放り出された臓物。
周囲に飛散した赤い液体。
そして血だらけの凶器を帯びた第一発見者……。
当時、倫花はまだ知る由もなかった。自分に殺人容疑の疑いがかけられていた事を――……。
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