弔いの火柱

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 それは威圧に等しい剣幕だったが、成山は一切動じずに淡々と言い返した。 「ま、思考は人によって異なるものさ。アンタがどう思おうと私は自分の考えを改める気はないよ」  冷静さを欠いた倫花には彼女の言葉すべてが被害者への冒涜にしか聞こえなかった。  それゆえ、意思に反して無意識に目の前の女へ駆けだそうとした、その刹那。 「――ッ!?」  突然、成山の姿が視界から消えて代わりに天井がその目に映った。しかしそれは一瞬の事で再び彼女の姿が視認できた時、初めて自分が仰向けになっている事に気付いた。遅れて、銃口を顔面に向けられている事を察知する。  この暗闇の中、あまりに迅速な手際を前に自分の無力さを実感し胸内で嘆いた。 「感情的になるな」  今にも撃たんとせん態度で俯瞰する成山の端的な一言で落ち着きを取り戻した倫花は、いったん肩の力を抜いて一息ついた。それを察したのか彼女は銃を下ろし、何事もなかったかのように話を続け始めた。 「遺憾だがいつまでも憂いていても仕方がない」 「……そうね」倫花は立ち上がり白い髪を掻きながら言った。「そうに決まってる」 「よし…………って、どこ行くの」 「どこって、こんな場所に長居したくない」  成山は処置なしと言わんばかりに嘆息を吐いた。 「私達だけ屋敷から出るのはあんまりじゃない?」 「は?」 「臭わないの?」  その言葉の真意を知った倫花はハッとした。  この階層に来た時、真っ先に鼻を刺激した腐敗臭。  つまりこの三階のどこかに屍体を遺棄した部屋があるはずだ。  奴の駆除に必死で臭いの事などすっかり忘れてしまっていた。 「場所は分かってる。弔うのが嫌なら先に出て行って構わない」 「いや」倫花は先程の発言を否定した。「私も行く」
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