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「土曜日さ、服買いに行くんだけどね」
「うん」
「私ってセンスないじゃん?」
「いっつも」彼女はにっこり笑って言った。「そればっかじゃん」
「だから一緒に付き合ってよ、お願いッ!」
両手を合わせて頭を下げる友人の気持ちをどうして無下にできようか。私は迷わず頷いてみせた。
「ありがとッ! 約束だかんねー!」
「分かってるから、うん。じゃね」
「またね」と意気揚々と遠ざかる友人を見送る。私も今日は部活が休みなので早々に帰宅する事にした。
当然だが、放課後は帰宅もしくは部活ラッシュで忙しく生徒が移動する。廊下や階段で衝突した人達を何度か見たことがあるので、特に角を折れる際は細心の注意を払っていた。
早速、彼女の予感は的中する。ぬっ、と現れた大柄の男子と鉢合わせた。
「あっ……すみません」
反射的に謝ってしまった。しかし男子は気にした様子もなく「おお」と言い残してトイレに入った。
「誰だろ……?」
髪を金色に染めた、恰幅の良い男子生徒。そんな目立つ人、この階では見かけた事がない。きっと、二年生か三年生だろう。
彼女もまた何事もなかったかのように玄関口へと歩いた。しかし、この時の私は思いもよらなかった。その男子が不気味に微笑みながら、背後から迫っていた事に。ましてや、気絶させられるなんて考えてもいなかった。
その後、旧校舎裏の納屋に拉致された私は――……。
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