ヒーローだって愚痴はある

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お題【超元気に見える主人公】【たばこ】 「ドーン!」 私は擬音を自分で言いながら彼女にぶつかりました。もちろんわざとぶつかりました。ツインテールに刺した星型の髪飾りを突き刺していく感じでした。 女子高生やらがやるじゃれあいみたいなのでなく本気で殺意を持って攻撃しました。 彼女は攻撃をヒラリと躱すと私が転ばないように支えます。なおかつ、さらなる攻撃を避けるためにホールドします。 チッ、避けられたか。 危ない危ない。危うく転んでしまうところでした。服にシミがつかなくて良かった。 彼女は私よりも15cmほど身長が高いので私は首根っこを掴まれるような格好になります。ちょ、首締まるから、ギブギブ。それにスカートの中見えちゃいますよ。なんでこんなにスカート丈が短いのでしょうか。 行き場のない怒りはまあ後にして。 厚底のブーツで蹴り込むことにします。相手はビクともしないのであまり効いていなさそうです。 いきなり諦めましょうかね。 「なんだよ、瑠奈かー」 私を顔の高さまで上げといて、彼女ーー私のお師匠様は残念そうに言います。 「瑠奈かーとはしつれーな」 勢いをつけて……、キック! 「はいはい」 掴んでない方の腕で足を掴んでそのまま投げ飛ばされます。私は綺麗な放物線を描いて飛んでいきます。 周りにいた人たちが落下地点を避けていきます。私は地面に突っ込みました。 へぐう。潰れたような声が出ます。 まあ私もそんなことではへこたれませんが。 スーパーマンとして鍛えてますし。地面土ですからね。コンクリートならお師匠のせいで死んでしまうところでした。 恨み殺す必要がなくなって良かった。少し痛いので後でこちらも攻撃する事としましょう。 立ち上がろうとする私の首根っこをまた掴みます。お師匠様は手慣れた様子で私を引きずって行きます。スーパーマンへの扱いとしてはダメだと思います。 人間、いや動物の扱いとしてもいまいちですが。 まあ、お師匠様ですし私はなされるがまま引きずられていきます。 ここで攻撃しようとしてもバランス崩して不利ですからね。 ツインテール汚れちゃいますかね? それにしても、いくら私の華奢な身体とはいえ、引きずってしまうなんで、お師匠様馬鹿力。 「痛っ」 私の心の中でも読めたのかお師匠様は私をポカリと殴りました。 かなり痛いので手袋の金属が突き刺さりかかっているのかもしれません。 よし、血は出てませんね。 ファッションセンスに殺されかけるとは思いませんでした。 全く、今年ウン十歳になるとは思えない。黒のジャケットにタイトスカートに真っ赤なハイヒール。おまけに芸能人がかけるようなサングラスときた。 一年中これだけど、暑くないのかな。 パッと見て危ない人みたいですがそうでは無いはずです……多分。自信はありません。よく考えたら私、お師匠様の過去は知りませんでした。 きっとお師匠様の事ですから映画が何本も作れるような超スペクタクルな過去を過ごしてきたのでしょう、知らなくても別に支障ありませんし聞かなくていいでしょう。 話が長そうです。 お師匠様は手頃なベンチに私を投げて(私は正座で着地しました)自分もその横に座りました。なんでかわからないけど1席空けて座りました。私からの攻撃にでも備えているのでしょうか? 「んで、どうしたの? また疲れた?」 開口一番お師匠様は私にそう聞きます。 挨拶もないのはお師匠様でも駄目だと思います。大人の基本のキですよ。お師匠は大人ではないんですね。 「はあ、残念ながらそうなのですー」 頭の中ではそんな悪態をつきつつ、私は図星ですのでそう返しました。 スーパーマンという仕事は過酷です。週7日年中無休の仕事を1人でこなさなければなりません。誰がヒーローは各地域に一人と決めたのでしょうか。 まさかアニメとかにある『追加戦士が多すぎて人数が多すぎ』みたいなのを防ぐためなのでしょうか。 理由が何にしろレディーにやらせる仕事では無いのですよ、全く。 ブラックもブラック。 第一に日曜朝のアニメみたいな選ばれたようなものだと思っていたにパワーは自分で鍛えておけとか、衣装は選べないだとか話が違うのですよ。 おべっか上手め。 ヒーロー学校に入学した時のワクワクキラキラな私を返して欲しいのです。 まさか三年間ほとんど座学とトレーニングになるとは思いませんでしたよ。説明会ではそんなこと言ってませんでしたし。 緊張で聞いてなかっただけかもしれませんが。 だって私の衣装、黄色のロリータドレスですよ。ロリータならもっとピンクとか白とかいっそのことゴスロリの黒とかなかったんですかね。いや、別に嫌いなわけでは無いんですけど数年着ているといい加減飽きてしまいます。 それに子供っぽく見えちゃいますし。夏場暑いし。 世はクールビズだというのに。 私は長いため息をつきます。ロングブレスです。 「タバコ吸っていい?」 「お師匠様ー。聞いてました?」 お師匠様私の話聞いていなかったですよね。 人の話は聞きましょうと教わらなかったのでしょうか。 「聞いてたって」 要するに疲れたってことだろ、と何事もないように返す。かなりはしょりましたね。 あとタバコ臭い。こっちに向けて息吐かないでください。人のいない方向いてください。 そういえばお師匠様はスーパーマンの頃からタバコを吸っていました。なんて言う銘柄でしたっけ?ほらあの文豪がよく吸ってるやつです。 「お師匠様、それ美味しいですか?」 「だめ、ヒーローだろ」 な、純情派なスーパーマンさん。 お師匠様はいたずらっぽく言いました。 美味しいか聞いただけなのにどうしてお師匠様の耳には「吸わせて欲しい」と聞こえたのでしょうか。 まあ、私も副音声でそう言いましたが。 私も清純派以外で売り出せばよかったです。そうすればタバコもお酒も好きに飲めたのに。 腹が立ってきたのでお師匠様の手からタバコをはたき落として踏みつけておきました。タバコは厚底の威力によってへしゃげます。 「お金」 「150円でいいですか?」 弟子に潰したタバコの代金を請求するんですか。アンダースローで小銭を投げつけても効果なし。 あー、吸いたい吸いたいー。しばらく子供のように駄々をこねていると、 「一本だけだぞ」 とお師匠様はくれました。そうそう、そういうところが円満な人間関係を築くための第一歩ですよ。 お師匠様は自分の分を口に加えて火をつけます。うわ、髑髏型のチャッカマンなんて趣味悪い。 お師匠様、火をください。 すっと軽く吸って、 「はー、美味しい」 タバコの煙が疲れた全身に入っていきます。頭が溶けていくような。 あっという間にタバコは無くなってしまいました。私は吸い殻を持っていたビニール袋に入れます。 環境に優しいヒーローですから。 「もう一本だけください」 「駄目!お前はそうやってすぐ体壊すから」 前だってちょっと酒飲んだらアルコールで倒れて運ばれてよー、こっちが怒られるんだよそういうの。 自分はタバコもお酒もガンガンにしているくせに。 「私は酔わないからいいんだよ」 「けち」 あーあ、早くヒーロー引退してタバコでもお酒でも自由にしたいのですよ。 「それよりいいのか?」 「何がです?」 私は特に予定はなかったと思いますが、誰か見えたのでしょうか。 「怪物出てるぞ? ヒーローさん」 あああ、本当だ! 大きな怪獣が静かに街を壊しています。結構壊しているのになんで音だけミュートなんでしょうか。 私の背中側だったので気付きませんでした。 私は慌てて箒を取り出して、またがります。これに乗れば現場まですぐに着くことができます。 「お師匠様さらば」 私は地面を蹴って現場へと向かいます。 タバコはお師匠様から盗んだから後で吸おっと。
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