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「や、ややっ! 星風くん、そんなに甘いもの好きじゃないでしょっ?」
靴箱に辿り着き、靴を履き替える星風くんの背中に必死で語りかける。
「……食べられないことはない」
しかし星風くんはそんな私の説得など耳を貸す由もなく、白いハイカットのスニーカーの靴紐を丁寧に結び上げていた。
……その背中といったら。
状況を忘れてキュンとしそうになって、慌てて頭を振る。
「いやいやいや! あそこのパフェは安くても1つ千円はするんだよ? 食べられないことはない、くらいのものに千円も出すの!?」
「山加が行きたいなら。仕方ないだろ」
立ち上がった星風くんの、ちょっと不機嫌な顔。
漏れなく見上げる形になって、漏れなく見下ろされる立場になって、星風くんが気怠そうに髪を掻き上げた。
その、仕草といったら!!!!!
髪は濡れてないし、普段通りの制服姿なのに、まるでバスローブ姿で濡れた髪を掻き上げたような色気が出ていた。いや、フェロモン?
目付きなんて無気力で、全く表情を零さない。
だけどこの上ないくらい私をドキドキさせる。
必死になって目を瞑り、赤くなりかけた頬を気合いで制した。
(x=2a分のマイナスbプラスマイナス……!!!)
まぶたを閉じて解の公式を唱え倒す。
明らかに感情が見えそうになった時にはいつも何かしらの公式を唱えてきた。
お陰で公式には強くなって、数学は得意な教科になってくれた。
落ち着きを取り戻し、どうにか目を開けると、ひんやりと冷たい目の前の瞳は、光陰のせいか灰色に見えた。
いつもなら、こんなことないのに、今日は虫の居所が悪いのか。やけに食いついてくる。
「じゃー……私はこの辺で」
「待って蒼葉ちゃんっっ」
どさくさに紛れて帰ろうとする蒼葉ちゃんの腕を、力いっぱい抱きしめた。
「ちょっ、やめてよ山加! 私を巻き込まないでっ」
「無理だよ蒼葉ちゃん! なんか星風くんが怖いよっ変だよっ」
「そりゃそうでしょ! あからさまに二人きりになりたい、一緒に帰りたいってオーラを出してるのに、山加がそれを拒否するからっ」
「だってもう、私、二人きりになったら抗えないっ、絶対流されちゃうっっ」
「流されるところまで流されな! そんで既成事実作ってこい!」
「!!!」
あまりに男前すぎる親友の言葉に絶句する。
と、その隙に、すちゃ、と額から二本指を離して、蒼葉ちゃんが意気揚々と帰って行った。
「……っ、……! ……っ!」
できれば……できれば……、いや、絶対……、今は二人きりになりたくなかった。
「……で? 山加はなんで俺と二人きりになるのが嫌なの」
「にょいっ!?」
ダイレクトに訊ねられて飛び上がる。
いや、しかし、この流れだ、山加。
もうこんな関係終わりにしたいと。
言え、私……!!!
「い、嫌というわけでは……」
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