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(くぅぅぅう……!!!)
なんて意気地のない私!
星風くんを前に、終止符も打てないなんて、なんという豆腐メンタル!
自分の不甲斐なさに下唇を噛み締めていると、
「……ふーん。じゃ、行こう」
「……っ、……っ……、……!!!」
いつものように当たり前に、星風くんは私の手を引いて歩いた。
この強引だけど、手のひらはしっかり優しいところ……、大好きっ。
キスはもちろん、星風くんは基本、スキンシップが多い。
こうやって手を繋ぐことも特別じゃないし、結構さらっと、やってのける。
校舎裏の自転車置場では、自転車を準備する間に、絶対一度キスをされる。
そのキスの理由を訊ねてみたら、
『? 山加がそこにいたから』
と、当たり前のような顔をされて愕然とした。
星風くんに理由を訊ねても、こちらが思う答えは返ってこない。
寡黙ってわけじゃない。
だけど極端に言葉数が少なくて、ある程度のことは「山加がいたから」で済まされる。
お陰で私は、キスを交わす関係になって早3年、自分の立ち位置を咀嚼できずにいて、女子生徒から「星風くんとどんな関係!?」と迫られても「中学校からの知り合い……」としか答えられないでいる。
なのにいつも自転車の後ろに乗せられて、星風くんの腰に腕を回させられるこの状況は、非常に心苦しい。
颯爽と、下校中の生徒たちの間をすり抜けると、その際決まってあちらこちらから「いーなー」の声が聞こえてくる。
ええ、そうだろう。私が同じ立場だったら絶対そう思う。
「……あ、あの……っ、いつも言うように、もう少し人目のなくなった場所から後ろに乗せてもらう……ではダメなのでしょうか……?」
「……山加はそれがいいの?」
ちらり、と流し目。
重めの前髪をナチュラルに分けて、私へ向けた左側の髪は耳にかけて、隠れたツーブロックがお目見えしている。
いつも思うんだけど、星風くんのセットの仕方、大好き。
本当にカッコいい。
だから、カッコ良すぎて……。
「そ、そういうわけじゃないけど……」
そんな目で見られると、そうですとは言えなくなる。
それに、そうですって言ったら……きっと星風くんは……。
「おっ、女の子たちがさっ、いつもいいなーって言ってるのが聞こえてきてさ。……恥ずかしいというか、心苦しいというか……、だって私たちつきつき付き合ってる……」
ゴニョゴニョ……と言葉を濁す。
付き合ってるわけじゃないんだよね?と訊ねる勇気がない自分が恨めしい。
関係を辞めると伝えたいのに、気持ちを確かめるようなことを聞こうとしている。
そんな矛盾する気持ちが交錯する。
だって、星風くんは……。
「キョーミない」
「……。」
そう吐き捨てるだけで、私たちの関係には言及してくれないのだから。
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