01.セフレならぬキスフレンドってやつ

8/18

183人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
結局、訊ねられないまま、いつものように星風くんの後ろに乗せられ、街に到着した。 すると。 「定、休日……!?」 でまかせで始まった今日のプランだったが、星風くんの後ろに座っている間に、私の胃袋はすっかりフルーツパフェの気分になっていた。 定休日という札の前、ショックの色を隠せずにいると、背後で自転車に跨ったままの星風くんが気怠そうな声で言った。 「どうする? ほかの店、捜してみる?」 「……ううん、いい……。今日は縁がなかったと思って諦める……」 それによくよく考えたら、今月既に金欠だ。 今月の星風くんは、やたらと私を外に誘った。 映画を観たり、水族館に行ったり。 恋愛ものの映画を観るのは恥ずかしいから、気になる実写化映画は観ることができず、基本は外国発のアクションもの。 息呑む展開、背筋が凍る展開に震えていると、そっと私の手を握ってくれたりする。 ドキッとして一瞬で映画のことなんか吹き飛ぶ私とは裏腹に、星風くんは至ってクールな顔で、しかも表情をピクリとも変えることなく、怖いシーンも緊張するシーンも真っ直ぐに見入っている。 ほんの、ほんの数パーセントでも、私のドキドキが感染(うつ)ったらいいのに……! と、念を込めようとすると、私のその力に気がついてか、星風くんの瞳がこちらを向く。 こちらを向くと、目と目が合う。 目と目が合うと、決まって首が傾げられ、その何色にも染まらない瞳が、私の唇を捉える。 クライマックスだとか、めちゃくちゃ良いシーンだとか関係なしに、何にも固執しない星風くんの唇が触れて、離れる。 ただそれだけで、私は星風くんのことしか考えられなくなって、星風くんでいっぱいになってしまう。 ……毎日が、その繰り返し。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

183人が本棚に入れています
本棚に追加