月の見えるレストラン

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月の見えるレストラン

 夕暮れの駅前で北見圭吾は立っていた。若干、ネクタイを緩めているがイタリア製のスーツを着こなし、清潔感を併せ持っていた。  年齢は四十を超えたが、初めて彼の年齢を知る相手には「まだ三十代にしか見えない」と言われることが多い。しかし、あまり若くみられても仕事上では貫禄がないようにも思え、圭吾は素直には喜べない。  携帯電話で時刻を確認していると、自分の前で誰かが立ち止まったのがわかった。 「お待たせ」  そう呟いたのは少女だった。夏服の制服からわかるように、その少女は女子高生だった。まだあどけなさの残る笑顔を圭吾に向けた。 「いや、オレも数分前に来たところなんだ」 「そうなんだ? じゃああんまり待たせなくてよかった」  少女は微笑む。  圭吾は携帯電話を内ポケットにしまい、 「行こうか、予約の時間ギリギリだ」  と目の前にそびえ立つビルを指差した。それは、高級ホテルとして名を馳せる建物だった。 「え……、こんなとこいいの?」  あまり世間の勘定問題には詳しくない少女もそのホテルが高級であることは知っていた。その中に入っているレストランが安くないことも想像がついた。 「ああ。『イタリアンが食べたい』と言っただろ?」 「私が思ってたのと何か違うんですけど……」  少女が独り言のように言った。そう言いながらも顔は少し緩んでいた。高級な何かを食べられると思っていたからだった。  しかし、 「玲奈と会うのはこれで最後だからな」  その圭吾の言葉で少女・玲奈の表情が消えた。 「やっぱり最後なの?」  玲奈は圭吾を見ずに言った。そう玲奈の表情を見て圭吾は苦笑する。 「こんな風にオレたちは会うべきじゃないんだよ」  信号が青に変わるメロディーが流れ、圭吾は前を向いた。圭吾が歩き出すと玲奈もその後ろを続いた。
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