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(……ナイジェル様、すごくお優しい方だったなぁ……)
同じ下位貴族のご友人たちとお話をしていた際、私はふとナイジェル様のことを思い出していた。そして、人は見た目で判断してはいけないのだと、強く再認識する。
「……アミーリア様? 何やら、嬉しいことでもあったのですか?」
「えぇ、頬が緩んでおりますよ?」
「え、い、いいえ……少し、面白いことを思い出してしまっただけですの」
二人の友人が、私のことを見てそう言う。そして、軽く笑った。
どうやら、私は無意識の内に頬を緩めてしまっていたらしい。でも、とてもではないがナイジェル様と会話をした、と言うことは言えない。だからこそ、私は誤魔化すことしか出来なかった。私とナイジェル様がお話をした、と言うことが噂になって広まってしまえば、後々面倒くさいことになりますからね。
そして、その後しばらくその二人のご令嬢とお話をしていた。その間にも、私の心は軽くなる。ナイジェル様に愚痴を言えて、本当によかった。そう、心の底から思っていた。……この時までは。
現実は、どこまでも私を苦しめたい様で。どこまでも……非情だった。
(……っつ!?)
だって、私の視界の端に、映ったから。――ほかでもない私の婚約者、ネイト様が。
(……あの方が、シェリア・ロード男爵令嬢、なのね……)
視界の端に映ったのは、嬉しそうに頬が緩んだネイト様。そのお隣で、仲睦まじく寄り添われているのが……かの有名な、シェリア・ロード男爵令嬢……だと、思う。シェリア様はとても綺麗な金色の髪をした……とても、お綺麗なご令嬢だった。私なんて……彼女の、足元にも及ばない。きっと、彼女に愛想を振ってもらえたら、笑いかけてもらえたら。どんな男性でも……一瞬で、恋に落ちるだろう。
「……アミーリア様?」
そんなことを考えていたからか、私は少し黙り込んでしまっていた。それを怪訝に思った二人の友人が、私の顔を覗きこんでこられる。それを、誤魔化すかのように私はひきつった笑みを浮かべた。
「……少し、お腹が痛くて。ですので、お手洗いに行ってきますわ」
まるで、言い逃げだった。
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