頑張ったね、ってもう届かない君へ。

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「…朱里さん、終わったって」 振り返ると、黒の学ランを着た弟くんがいた。遥香によく似た顔立ちの彼はなかなかにイケメンだ。 今日は遥香の葬儀の日。 火葬は、今、終わったらしい。 これから、骨になった遥香と再会する。 本当は、ただの友人は火葬まで呼ばれないのかもしれないが、どうしてもと私からお願いした。 遺体の損傷が激しくて棺の中は見せてもらえなかったから、これが久しぶりで、最後の対面だ。 「ん、今行くね」 制服のスカートを軽く叩き、軽く襟を直す。 遥香は、今、抱えていた悩みから開放されたのだろうか。 分からないけど、私は、一言、遥香に言ってあげなければならない。 ふと、外を見る。 煙が登る、青空をみた。 あの煙は遥香の一部なのなだろうか。 今日は晴れている。 弟くんと二人で歩いて、他の参列者の人達と合流した。 ほとんどが遥香の家の親戚の人達で、私の存在は少し、異質。 少し待って通された、ほんの少し熱の篭った部屋の中。 葬儀場の係の人が運んできた、台の上には骨になり、すっかり小さくなってしまった遥香がいた。 うっ、と誰かの嗚咽が零れた。 すすり泣く声が響く。 そんな中で、私は遥香に小さく声をかける。約束だから。 きっと、遥香は頑張ったのだろうから。 出来れば、暖かいあなたに言いたかった。 「…頑張ったね、遥香」 まだ、暖かい季節。 なにかを抱えて、それを誰にも言わないまま。 誰も、それに気づけないまま。 最後まで、一人で頑張って。 遥香はいなくなった。
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