頑張ったね、ってもう届かない君へ。

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頑張ったね、ってもう届かない君へ。

まだ太陽も昇る前。 夜どうし網戸のまま寝てしまった。吹き込んでくる早朝の風が少し冷たくて、肌寒さに少しはだけた掛け布団を手繰り寄せる。 暗闇の深い所から、ふわりと浮き上がるように意識が覚醒していく。 「…ぅうう……何時、よ…」 眠気でぼーっとする頭のまま、枕元に置いたスマートフォンを手探りで探した。頭の上の方で無造作に手を動かせば、直ぐに硬いそれに触れる。充電器のコードに刺さったままのそれを掴み、電源ボタンを押せば、直ぐにロック画面が表示された。 「…ぁぁ...眩しい……」 光に慣れない目に強い光が入ってきて、瞼が重くなり、思わず目を細めてしまう。何度か目をパシパシと瞬きをして、やっと光になれてきた。 改めて画面を確認すると、表示されたのは4時30分を回ったばかりだ。いつも起きる時間より全然早い。 「……もうひと眠りできるじゃん」 まだ、起きなくてもいいことを確認してスマートフォンを元の位置に戻し、再度枕に顔をしずめた。 目を閉じ、再度意識が沈むのを待つ。 けれど、……何となく眠れない。 何か、胸の当たりがザワザワとして、なんだろう。 言葉にするには難しいけれど、嫌な感じがした。 なにか、楽しみなことがある日のソワソワした感じや、大事なことの前にどれだけ反復しても不安になるとか、そんな感じとも違う。 何かが、胸の中でつっかえている。 ぐるりと身体を回転させて、天井を眺めた。薄暗い空間をぼーっと眺める。 静か、だ。 カチ、カチ、と時計が秒針を刻む音、時折、車が走る音が聞こえる。 風が吹き込んできて、カーテンが少し揺れる。 普段気にもとめないような音や、小さな動きにやけに敏感になっている気がした。 天井を眺めたまま、ふっ、と深く息を吸い込んで、身体の中から全部、空気を吐き出してしまう勢いで大きく息を吐いてみる。 何度か吸って、吐いてを繰り返した。 胸元の息苦しさが消えない。 なんだか、本当に眠気は遠ざかってしまったようだ。 さて、どうしたものか。 五分くらいもう、経ったかな。 起きてしまおうか、このまま特になにもすることも無く、ベッドの中にいようか、悩んでいた。 数時間もすれば今日も学校だ。 これは学校で、確実に眠くなる。 (いま起きるのもだるいなー) なんて、思った時。 途端、最近流行っている、アーティストの音楽が部屋に鳴り響いた。そこまで大きな音ではないけれど、静かな空間にはやけに響く。 どこからか少し考えて、ついさっき時間を確認して、置いたスマートフォンだと気づき、着信だ、と慌てて起き上がる。 「こんな時間に誰よ…」 確認しようと体を動かし、画面に表示された名前を見た。 「…は?公衆電話??」 今どき公衆電話から電話? 頭の中で電話をかけてきそうな人をリストアップしてみた。 友人は基本的にスマートフォンを持っている。両親は 自室でまだ、寝ているだろう。 本当に誰だか分からない。ふと、昔読んだ怪談話が頭を過り、背中がスっ、と寒くなった。
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