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北條はいっさい表情に出さない。むしろ話が早い。
「その御方は──『貧乏神』様にござります。その者、厄災の元凶につき、至急お戻し願いたい」
あまり刺激的なことは言いたくなかったが、北條はあえて仕掛けた。
「彼は──わたくしの”客人”です」
「たいそう長期間滞在させてる客人ですなァ~」
月弥がバナナを食べながら云った。
壁板の隙間から覗き見していた家来も月弥を取り押さえようとしたが、うしろの影で城主が止めた。
「はっきりいえば、あンたが連れてきた貧乏神のせいで、国がピンチになっちゃってるってワケ。ましてやここは何万という経済回線を担ってる流通国家なんだろ?このままじゃこの国はさらにおっちんじまって世界恐慌なんてこともありうるンだぜ?城主のメンツもなにもねーだろうがよ」
城主が影でごくりとつばを飲み込む。月弥が吐けずにいた嘆きを代弁したからだ。
「仮に落城し、国が滅んだとしても、娘の望むことあらばきっと心中を察して文字どおり───ともに心中という道をお父上ならおえらびになさるはず」
そのとおり!!ばたりと壁が倒れ、突っ伏した家来を踏みながら我が娘に添い、肩を抱いた。
「よいのじゃ。おまえがそれで幸せなら」
「アンタさっき娘の目ェ覚まさせてくれっていってただろうが!」
「なにを申す!わが最愛の娘の望んだことだぞッ」
「あの雑巾老人を追い出せって」
「ふ、不届きッ!戯言をほざくか」
「どっちがだよ!!(# ゚Д゚)」
「というわけで、なにがあろうと、わたくしの心は揺らぎません。ご親切痛み入ります。どうぞ」
──御引取りを。
「あーあーあーこんなバカ親子相手にしてたらこっちの身がもたねえや。どうなっても知ンねえかんなァ!」
悪態をつき部屋を去る月弥に、城主は打ち首にするぞ!と叫んだ。
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