第6話 【貧乏神《びんぼうがみ》奪取作戦《だっしゅさくせん》】

13/17
前へ
/17ページ
次へ
    さっそく外套の威力(いりょく)が効いているとみえ、赤外線はいっさい反応しなかった。 たびたび顕現(けんげん)する看守(かんしゅ)をのしながら、868号を頼りに突き進んでゆく。 順調だが、監視室のモニターにははっきりと本人たちのすがたが映しだされている。 「しかしよくもまァばれないもんスね」 「あのお殿サマがやってくれてるんだろうぜ」 監視室では、城主が菓子や酒をもちこみ、看守たちと談笑(だんしょう)していた。 内心(ないしん)、映像に映る乾坤堂を見、心臓を跳ね上げながら。 868《レーダー》が反応した。 「西(にし)だ」 心許(こころもと)ない。 「ほんとうに監獄にいるんですかね?」 「わからねえ。だから」 “別行動”取ったんじゃねえか」   ◆   ◆   ◆ 大広間では北條と静季─── そして、姫が対峙(たいじ)していた。 たがいに見つめるのみで、時が過ぎるばかり。 「内内(うちうち)では、“石姫(いしひめ)”と呼ばれているそうで」 (とばり)(やぶ)ったのは北條だ。 「気にも留めません。事実ですから」 「それは(じょう)を表に出さぬからですか」 「出さずとも(れい)こそ人のあるべきすがた。活気(かっき)だけで金子(きんす)はもらえません。冷静な分析(ぶんせき)と行動こそが経済をまわすのです」 「この現状(げんじょう)を見てもですか?」 「これはあの御方(おかた)仕業(しわざ)によるもの」 はたしてそうでしょうか?───北條の眼鏡がきらりと光る。 「国が(かたむ)いたのはたしか、家臣(かしん)謀反(むほん)やら問屋(とんや)不景気(ふけいき)が原因だそうですね」 「そうです」 「それは、貧乏神さまの影響によるものなのでしょうか?」 「───」 「世間(せけん)なんてそんなもんでしょう。だれもが(はら)一物(いちもつ)抱え、野望(やぼう)宿(やど)して生きている。なかには献身的(けんしんてき)賢者(けんじゃ)もおりますが、それはバカと呼ばれやすいですな。人はバカと呼ばれぬためにみずから考え生きておるのです。世間体(せけんてい)というくだらぬ呪縛(じゅばく)にとり憑かれながら」 北條が、じっと姫を見て云った。 「すべては偶発(ぐうはつ)に起きた不運(ふうん)が、重なりあった現実(げんじつ)にすぎぬ」 石姫がかるく瞠目(どうもく)する。  
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加