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さっそく外套の威力が効いているとみえ、赤外線はいっさい反応しなかった。
たびたび顕現する看守をのしながら、868号を頼りに突き進んでゆく。
順調だが、監視室のモニターにははっきりと本人たちのすがたが映しだされている。
「しかしよくもまァばれないもんスね」
「あのお殿サマがやってくれてるんだろうぜ」
監視室では、城主が菓子や酒をもちこみ、看守たちと談笑していた。
内心、映像に映る乾坤堂を見、心臓を跳ね上げながら。
868《レーダー》が反応した。
「西だ」
心許ない。
「ほんとうに監獄にいるんですかね?」
「わからねえ。だから」
“別行動”取ったんじゃねえか」
◆ ◆ ◆
大広間では北條と静季───
そして、姫が対峙していた。
たがいに見つめるのみで、時が過ぎるばかり。
「内内では、“石姫”と呼ばれているそうで」
帳を破ったのは北條だ。
「気にも留めません。事実ですから」
「それは情を表に出さぬからですか」
「出さずとも礼こそ人のあるべきすがた。活気だけで金子はもらえません。冷静な分析と行動こそが経済をまわすのです」
「この現状を見てもですか?」
「これはあの御方の仕業によるもの」
はたしてそうでしょうか?───北條の眼鏡がきらりと光る。
「国が傾いたのはたしか、家臣の謀反やら問屋の不景気が原因だそうですね」
「そうです」
「それは、貧乏神さまの影響によるものなのでしょうか?」
「───」
「世間なんてそんなもんでしょう。だれもが肚に一物抱え、野望を宿して生きている。なかには献身的な賢者もおりますが、それはバカと呼ばれやすいですな。人はバカと呼ばれぬためにみずから考え生きておるのです。世間体というくだらぬ呪縛にとり憑かれながら」
北條が、じっと姫を見て云った。
「すべては偶発に起きた不運が、重なりあった現実にすぎぬ」
石姫がかるく瞠目する。
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