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「貧乏神さまはまったく影響がなかったとおっしゃりたいのですか?」
「いいえ。そうは申しません。あなたが連れてきた貧乏神さまは、単にその”きっかけ”を与えたにすぎぬのです」
静季が不安そうに石姫をみやる。北條に論攻めされ、顛末をすこしばかり憐れんだからだ。
「もしや、貧乏神さまを見た家臣や問屋が『こうなってはいかん』とおのが心に決め、野心を爆発させたとも考えられます」
「嘘です。彼ならだれにも見られぬようあの部屋に・・・ッ」
きん───と石姫の脳内に電気が走った。
これ以上口を滑らせてはいけないと思ったのだろう。
北條は動揺を確認し、つづけた。
「この現実は、起こるべくして起こっている事象」
「───」
「そうでなければ貧乏神さまといえども霧となり消滅いたしましょう」
みんな──心に貧乏を抱いてるものなのですね、と静季がつぶやく。
「理屈はわかりました。わざわざそんなことを諭しにわたくしの元へ?」
「本筋は、これからでございます」
たがいの心理戦は北條が優勢に立ち、いよいよ佳境に差し掛かる。
「『金は天下の回り物』と人は云います。この世にある金は一定量。それが増えたり減ったりで経済はまわる」
「それがなにか?」
「それは、”心”もまた然り」
「───」
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