第6話 【貧乏神《びんぼうがみ》奪取作戦《だっしゅさくせん》】

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    万人(ばんにん)が観てもわかるほどの骨川筋衛門(ほねかわすじえもん)で、頬骨(ほほぼね)はこけ、眼窩(がんか)(くぼ)み、無精(ぶしょう)襤褸(ぼろ)(まと)い、(つえ)でおのれの短躯(たんく)をやっと支えた、いかにも貧民街(ひんみんがい)落伍者(らくごしゃ)のようだった。 さすがに上げるわけにはいかぬと守衛(しゅえい)(まゆ)(ゆが)めたが、姫は丁重(ていちょう)にお通しくださいの一点張りで、城内へ消えた。 老人には至れり尽くせりの贅沢(ぜいたく)堪能(たんのう)させたが、なぜかすべて(ことわ)るいっぽうだった。 食事にも手をつけず、女中と遊ぶとなるといずこかへ消え、風呂に呼ぶも応答(おうとう)せぬ。 老人の通した部屋はなぜかたった3日で蜘蛛(くも)()やカビやら腐臭(ふしゅう)(あふ)れた。いくら掃除(そうじ)してもまたすぐ戻る。 家来たちは、老人がそれでも(ひか)えめで折り曲げた腰をさらに曲げるほどの低姿勢(ていしせい)に、恐怖すら感じたという。 事態(じたい)急変(きゅうへん)したのは、1週間後のこと───。 取引先の廻船問屋(かいせんどんや)度重(たびかさ)なる(みせ)仕舞(じまい)。信頼を置いた家来の不正受給(ふせいじゅきゅう)の発生。城の財政状態を潤滑(じゅんかつ)にするためにやむなく年貢(ねんぐ)を引き上げた。 脱税(だつぜい)する企業(きぎょう)が増え、消費を零落(れいらく)した国民の波も絶え間なく押し寄せ、悪循環(あくじゅんかん)を期した働売国は20日足らずで貧困国へと変わり果てた。 そんな事象(じしょう)が起きたのも、姫があの老人を城へかくまうようになったからである。 ◆   ◆   ◆ 「まちがいなく、貧乏神の影響だな」 「なるほど、その老人とやらは貧乏神ッスか」 「事情を話せばお姫様もわかってくださるでしょう」 「それがッスね、静季姐さん。老人もそろそろ帰郷(ききょう)させたほうがよいと女中どもが進言(しんげん)したらしいンスが、頑として帰す気はなく、むしろ永住(えいじゅう)させようとする勢いなンす。老人には身寄(みよ)りもねえし」 ま、貧乏神なら身寄りなんざ無くて当然(とうぜん)なンすがね──タスケは頭をぽりぽりかいた。  
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