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万人が観てもわかるほどの骨川筋衛門で、頬骨はこけ、眼窩は窪み、無精。襤褸を纏い、杖でおのれの短躯をやっと支えた、いかにも貧民街の落伍者のようだった。
さすがに上げるわけにはいかぬと守衛は眉を歪めたが、姫は丁重にお通しくださいの一点張りで、城内へ消えた。
老人には至れり尽くせりの贅沢を堪能させたが、なぜかすべて断るいっぽうだった。
食事にも手をつけず、女中と遊ぶとなるといずこかへ消え、風呂に呼ぶも応答せぬ。
老人の通した部屋はなぜかたった3日で蜘蛛の巣やカビやら腐臭で溢れた。いくら掃除してもまたすぐ戻る。
家来たちは、老人がそれでも控えめで折り曲げた腰をさらに曲げるほどの低姿勢に、恐怖すら感じたという。
事態が急変したのは、1週間後のこと───。
取引先の廻船問屋の度重なる店仕舞。信頼を置いた家来の不正受給の発生。城の財政状態を潤滑にするためにやむなく年貢を引き上げた。
脱税する企業が増え、消費を零落した国民の波も絶え間なく押し寄せ、悪循環を期した働売国は20日足らずで貧困国へと変わり果てた。
そんな事象が起きたのも、姫があの老人を城へかくまうようになったからである。
◆ ◆ ◆
「まちがいなく、貧乏神の影響だな」
「なるほど、その老人とやらは貧乏神ッスか」
「事情を話せばお姫様もわかってくださるでしょう」
「それがッスね、静季姐さん。老人もそろそろ帰郷させたほうがよいと女中どもが進言したらしいンスが、頑として帰す気はなく、むしろ永住させようとする勢いなンす。老人には身寄りもねえし」
ま、貧乏神なら身寄りなんざ無くて当然なンすがね──タスケは頭をぽりぽりかいた。
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