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「お姫様はなぜそこまで貧乏神さまを」
「さァて、それは本人に聞いてみなきゃ」
「城主はなにしてんだい」
「手塩にかけた娘が家出をしたという前代未聞の事件にショックを受けたらしく、切り出すのも忍びないらしいンス。それで余計刺激を与えてまた城を出るようなことがあれば、心臓が止まるだけでは済まないと」
「死ンじまえそんな城主。よく国を治めてこれたな」
「それだけ、”娘”は特別な存在ってことッスかね」
「ほかの貧乏神さんの話によると、ときどき通信は来ていたようですね」
貞吉がなぜか背中に集る蠅を振り払いながら云った。
「おそらく何度か城を抜け出したのだろう」
「だが、また連れ戻された」
「───」
月弥は不機嫌そうに伏魔殿を見上げた。
◆ ◆ ◆
事情を説明すると隈をつくった城主も家来も乾坤堂を招き入れた。
もはや、藁にもすがる思いなのだろう。
大広間に通され、“石姫”との面会も叶った。
清楚を絵にかいたような月下美人に、タスケと貞吉はからだを硬直させた。
「わたしになにか」
せせらぎのような澄んだ声音だ。
北條がすくと前に出、頭を垂れた。
「我ら、妖怪退治屋・【乾坤堂】と申します。つきましては姫に申し上げたきことが・・・」
「あの御方ならお渡しかねます」
姫の一言に、北條の心の鈴音がちりと鳴り、瞼のみ薄く開けた。
一同も、軽く目を丸くした。
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