月の巫女

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私は月。 人類は誰もが私を見たことがあるだろう。 私の仕事は闇を照らすこと。 神から送られてくるエネルギーを反射させ、闇に光を届ける。 大変なことなんて何もない。 永遠に、いや、長い時間、私は同じことを続けるだけ。 機械の様に、ただひたすら、同じことを私の仕事が終わるまで。 そんな私にも自我がある。 なぜ自我があるのかと聞かれてもある物はある物なので分からない。 貴方もなんで自分に自我があるのか考えたことはありますか? ないでしょう? そういう事です。 私には楽しみがあります。 なんだかわかりますか? それは、彼を見続けること事です。 彼と言っても名前は分からない。 ずっと、私と一緒に、ただ、一緒にぐるぐると同じところを回り続ける。 それだけ・・・。 でも、それだけに彼の事はよく知っている。 私が自我を持つ前から私は彼を見続けたのだから。 でも、もうすぐ私は自分の仕事を終えることになるのだろう。 私たちの距離はどんどん離れている。 昔は手が届きそうなほどに近かった。 少しジャンプすれば渡れるのではと思うほど。 今の私たちは手を伸ばそうが届かない。 遠すぎる距離。 二人の距離。 遠くの星に住む神様達は遊びすぎたせいで天の川によって離されたと聞いたことがある。どこで聞いたかなんて覚えていない。 私たちはみんな記憶力は良くても時間などに頓着しない。 だから、覚えていても何時あったことか覚えていない。 私たちは、遊びすぎたのだろうか? 私は、ずっと仕事をし続けていただけなのに・・・。 彼は、彼を守ろうとしていたのに・・・。 心残りがあるとすれば彼と直接会ったことがないことだ。 もう、会うことは出来ない。 もう、話すこともできない。 そもそも、彼は私の事を覚えているのだろうか。 もしかしたら、私の様な小さな星の事なんて忘れているのかもしれない。 あるいは、興味が無いから引力から外され少しづつ遠くに追いやられているのか。 確かめることは出来ない。 もう、会うことは出来ないのだから。 本当にそうなのか? 正確には会うことは出来るかもしれない。 私たち星には少なからず神の力が存在する。 エネルギーを反射させ続けた私や浴び続けた彼は多くの力を蓄えている。 私は、頑張れば往復できるだけの力がある。 ただ、往復した後は力が不足して仕事をすることが出来なくなってしまいます。 なので、彼に力を分けてもらわなければなりません。 私は怖い。 彼に拒絶されることが。 拒絶されたあと、私は今の生活ができるのだろうか? そんな事は分かり切っている。 無理だ。 確率的に絶対はないとしても 拒絶されれば必ずもとには戻れない。 チャンスがあるとすればもうすぐ来る私と彼が一番近くなる日。 その日ならばなんとかなる可能性がある。 私は、最後に、拒絶されても、私たちが何だったのか知りたい。 そんな、覚悟を決めたように言っても方法は簡単なことだ。 神の力を使って地球に行けばいいのだ。 この時、私の本体は今まで通りに決まったところを動き続ける。 離れすぎると私の残りの力で帰れなくなることが問題だ。 ただ、私と彼が会うだけなのでそんなに時間は掛からないだろう。 そんなこんなで私はもうすぐ彼に近づく。 危ない、時間を気にしていないので通り過ぎるかと思った。 私は少し焦りながら彼の元へいく準備をする。 準備と言っても私が持っているのは正装のみ。 彼の星では巫女装束というらしいが。 そもそも正装と言っても着ることなんてない。 私の様に他の星に行く時くらいだ。 なので、準備もほとんどない。 あと、私たち星の神は人の姿をしている。 勿論、腹が減らないとか怪我をしないとか人の姿をしているから同じだということはあり得ない。 まぁ、そんな事はどうでもいい。 どうやら私が緊張というものを感じている様だ。 緊張を感じようが彼の元へ行くことは出来る。 失敗などありえない。 神の力を体に流すと心地よい暖かな力を全身に感じ、目を瞑り、彼の元へ行きたいと行き先を指定する。 あとは一瞬だ。 気が付くと私は彼の星にいた。 上を見ると私の星がある。 大きくて、丸くて、白い。 なかなか、美しい星を私は作れているかもしれないと思った。 しかし、昔はもっと大きく、もっと綺麗だったのだろうなと思ってしまう。 残念だ。 そのころに会いに来ていたらもっと自信を持てていたかもしれない。 暗闇を照らす月明かりの下で私は下を見る。 私がいられる時間はこっちでいう一時間ぐらいだ。 彼は私が来たことを把握しているはずだ。 私が拒絶されていなければ来てくれるはず。 ・・・。 ・・・。 ははは・・・。 彼も忙しいのだろう・・・。 この星も私とは違う形で終わりに向かっているから。 その、対策でい、忙しいのだろう・・・。 じゃ、邪魔をしてはいけないな・・・。 月明かりが照らす暗闇の中、どうしてこんなにも暗くなるのか。 とても暗く感じる。 とても、冷たく感じる 今は、冬というものなのか? それとも、私が私の星にいないせいでエネルギーがしっかり反射されていないのか。 彼もきっと、仕事を頑張っているんだ。 私も帰ろう。 自分の仕事をするために。 私は、また上を見る。 あんなに遠かったかな? それは、私たちの今の距離を表すように。 私は、神の力を全身に流す。 今は、心地よいとも思わないしうまく流れてくれない。 なぜだろうか? 私は緊張などしていないのに。 失敗する要因などない、はずなのに・・・。 このまま、帰れないのかな? そしたら、どうなるのだろう。 彼の星で生きられることを喜ぶのか? いや、そんな事、彼は喜ばないはずだし、私も仕事が出来なくなってしまう。 それは、いけない・・・。 でも、今はもう少し休みたい。 月明かりの下で ・・・。 私は、今、初めて休んでいるというのかもしれない。 地面に寝っこらがって夜空を見ている。 不思議なものだ。 星の並びが全然違って見える。 天の川によって離された神たちは心を通わせることが出来た。 しかし、私は会うことも出来ず、ましては話すことも。 なのに私はどんどん彼から離れて行ってしまう。 逢いたかったな・・・。 「誰にだい?」 不意に声を掛けられる。 優しい声、ずっと求めていた声 「あなたに・・・。」 私は、しっかりと受け答えできているのだろうか? 緊張で声が震えている。 声が出にくい。 「ははっ、私に逢いたかったのか。」 「そうだ、私はずっとあなたを見ていた。」 「そうなんだ、私も君をずっと見ていたよ。なんていったって」 「「自我ができる前から知っているんだから」」 はは 何だ、やっぱり明るいな。 何だ、やっぱり暖かいな。 時間は早く過ぎ月はまた遠くへ行ってしまったが私は彼と話し続けた。 これは、天の川で二人を離さないといけないわけだ。 本当に仕事が出来なくなってしまう。 彼と彼女はお互いに自分の記憶を話し合った。 月明かりの下で
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