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モールを出て、右に折れると駅方面に向かう。
幅広の歩道の右端に目一杯寄る。たまにいる暴走気味の自転車対策だ。少し登り坂になっているせいで、向こうから下り来る自転車は、思ったよりもスピードが出ている。
ここから目的地までは二百メートルくらいだろうか。疎らに並ぶオフィスビルには光もない。
僕らがテクテク歩いていると、風が段々と湿り気を帯びてくる。それに運ばれて潮の匂いも微かに感じられる。
あまり興味を引くものがないのか、それとも早く目的地に行きたいのか、九丸は脇目も振らない。途中すれ違った若い女性二人組の、「え、猫!? かわいい!」という声も気にせず進む。せっかく二人は立ち止まってくれたのに、九丸がそんなだから僕は会話もできずに笑顔を返すだけだ。
いつも渡る横断歩道が見えてくると、九丸の歩みが若干速くなる。お尻の振れが小さくなって、動きに無駄がなくなる。
横断歩道に着くと、九丸はお尻をストンと落として前足をピンと伸ばし、待つの姿勢になる。信号が分かるわけではないだろう。車が途切れずに走っているので、単純に渡れないから待ったのだと思う。でも、親バカなせいか、なんて利口なんだと思ってもしまい、自然と頬が緩む。
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