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出会って一年
仲秋の名月に向けて、月が優しく肥えていく。一昨日の晩までのへこみ気味の半月は、今夜はいくぶん丸みを帯びて、やわらかく黄づいた優しげな光を控え目に注いでくれる。
そんな九月九日の晩。爽やかな風に緩く吹かれながら、僕と九丸は月の光よりも明るい街灯に照らされて歩いている。
九時半を少し回っているだろうか。古びた住宅街を行く僕らとすれ違う、仕事帰りらしい急ぎ足の女性や、呑みの帰りらしい揺れているおじさんが奇異の目を向けてくる。まあ、分からないでもない。僕の数歩先をタッタタッタと歩くのはキジトラの猫なのだから。きっと遠目には小型犬でも散歩させているように見えたのだろう。だから、はっきり分かるまで近づくとみんな驚いたように一瞬立ち止まる。
九丸はそんなことは気にすることなく目的地に向けて僕の前を行く。たまに植え込みに顔を突っ込んだり、何があるのか分からないけれど、地面をクンクンしたり。それ以外は急ぎ過ぎてリードを引っ張っることもなく、歩調は僕のペースに合わせてくれる。そんなところはちゃんと躾された犬みたいだ。もっとそこら中にある高低さをいかして、エネルギッシュな散歩になっても構わないのにと思ってもしまう。だって、猫だろ? 気ままにしなよ。いや、九丸にとっては猫らしくないのが気ままということなのかもしれない。
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