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姉だから
私は何十人もの記者に対し、教師のごとく説明した。
「妹の楽才は、嫉妬できるレベルのものではありません。彼女のなかに、音楽の素が無数にあり、美しい音があふれんばかりに存在するのです。それが曲として表れるのを私も待っているひとりなのです」
「さあ、もういいだろう。続きはまただ。君たちにはわからんのか、彼女は本人に早く朗報を伝えたいだろう。ついて行ったり、家に押しかけたりしたら、容赦しないからな。まだ何か知りたいことがあるなら、兄弟子である俺に聞け」
モリスは私に「任せろ」とささやき、あごでしゃくって退出を促した。
ひとり、学士院の回廊を歩きながら思った。妹の才能に嫉妬しなかったというのは正確ではない。父も父の友人もリリの新作をいつも褒めた。私も褒められはするが、明らかに反応が違う。どうやっても敵わないことを、理解できるぐらいの楽才はあった。妹への嫉妬は長続きしなかった。父が他界してそれどころではなかったから。あれから十年をとうに越えた。病弱なリリを守り、教会のオルガニストや音楽教師として仕事に打ち込む日々だった。
車窓から、今しがた妹が栄誉を受けた学士院がまだ見える。円形天井が夕焼けに照らされ、美しく輝いている。リリが元気になったら、家族で記念写真を撮りに来よう。父の遺影も携えて。
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