☆ ユートリアでの生活

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☆ ユートリアでの生活

 自然溢れる緑の中にその城はあった。  トーマス家のお屋敷を出るとその足でユートリア城へ向かうというルイスに同行し馬車に揺られること長らく。ようやく見えてきた聳え立つ城に、相変わらず現実味のないことばかりにまるで夢を見ているようだ。  ここで、僕はこれから働くのだ。取り返しのつかない失態をしでかしてしまったらどうしようか。幾度となくトーマス家の人には迷惑をかけ叱責を受けた。自分のいたらなさは身を持って知っている。  王子さま相手にそんなことをしてしまったのなら、命を持って償うしかできないのではないだろうか。でも、それもいいかもしれない。だって、僕は生きていても仕方のない人間だ。価値のない、なんの取り柄もない人間だ。  僕一人死んだところで誰も悲しまないし、きっと誰にも知られることなく消えていく。ならば、そんなことを恐れたところでなんになるのだろう。そう思えば少しは気が楽になった。 「共にこの城で私を支えてくれるものたちの紹介は追々していくね。とりあえず、城の中を案内するよ。とりあえず、シエルが関係する場所を今日は見て回ろうか」 「は、はい」  王子自ら案内してくれるらしく恐れ多いことだったが、ルイスはそういう人柄なのだろうとグッとこらえた。高貴な人というのは、自分は動かず従者に色々とやらせるという勝手なイメージだったが、ルイスはそうではないらしい。トーマス家に乗り込んできたのも一人だった。従者を連れてはいなかったし、ここまでも従者もなく僕と二人きりで馬車に揺られた。もちろん馬車を操る人はいたが、騎士や側近などそういった近しい人間ではないはずだ。
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