もしも陰キャが陽キャに恋をしなかったら

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そしてその更に翌日。 奴は同じように学校に来た。 が。 今日に至っては正直それ所では無かった。 ーー部活動集会の間何しよう。 もう、笑えるくらい1人である。 名取先生は他の大人数部活の顧問も受け持っているためそっちに行って居ないし、この教室も戦国ビリヤード部とかいう訳の分からん部活の集会に使われるため、独り身としては本気で居場所がない。 先に終礼があるため帰ることも出来るには出来るが、なんせうちの学校は裏門から帰ろうとしても正門から帰ろうとしても開けた広場を突っ斬らなければならないため帰ろうとすれば否が応でも目立つ。 ーー待とう。 他の文化部が終わりそうな時刻まで校内で身を潜めて、彼等に紛れて帰ろう。 そんなに気を使わなくとも誰も私の存在なんて気にしちゃいない。そのくらい知ってる。それでもこっちは気になるのだ。いや、別にあんな動物的欲求に支配された奴らのことなんて眼中にすら入っていないが、何となく。 「愛川」 そんな浅い思考を頭の中で張り巡らせていると、唐突に誰かから声をかけられた。 「ぅぉう。あ、な、名取先生」 「すまん、驚かせてしまったな」 「い、いえ・・・」 私の反応が面白かったらしい。 名取先生は可笑しそうにクスリと笑うと手に持っていた紙をこちらに差し出した。 「・・・これは?」 「5.6限の教室の割り当て表。一人研究会は旧校舎の第4講義室な」 旧校舎って・・・。 「えぇえ!?あんな隔離された所に?そもそもあそこ電気通ってるんですか?」 いや、それ以上に。 「部員1人なのに集会をする意味って、ありますか?」 二重の意味で驚いた。 あんな閉ざされた場所で、それも1人で部活動集会をするなんて。有り得ない。なんてことだ。 そこら辺の部活に適当に入っても地獄、1人で自分の部活を作ってオアシスを作ろうとしても地獄。 この世界はぼっちに厳しい。 ぼっちの平穏を邪魔しようとする意図すら垣間見える。 名取先生はあからさまに落ち込む私の姿を見て珍しい物を見たように目を瞬かせると、困ったように眼鏡に触った。 「何だ、まだ何も聞いてないのか」 「え?」 「いやーー」 いきなり言われた言葉に怪訝な顔で首を傾げると、名取先生は小さく考える素振りを見せて顔を上げた。 「・・・まあ、大した話じゃない」 「な、なんですかそれ。気になります」 「旧校舎は色々と古いから物に触れる時は気をつけろよって話。じゃあ、また放課後」 ーーはぁ? 名取先生は満足そうに笑うと会話は終わりと言わんばかりに踵を返し、教室を出ていってしまった。 取り残された私はただただ呆然と、放課後味わうであろう人生史に残る虚無感に備えいつも通り防衛機制を働かせ始めた。 “すっぱいぶどう” 私は、自分があの狐であることを心のどこかで理解していた。 ただ、それでも。 どうしても、認めなくなかったのだ。
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