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母が死んだ。
享年九十歳、母がここまで生きたいと言っていた年齢だ。幸せそうに花の箱の中で眠っている母に。よかったな。と俺は低く言った。
葬儀が終わり、遺物整理の為実家に戻った。数年ぶりに見たそこは、子ども時代に見たそれとあまり変わっていなかった。
妹が夫婦でここに住むと言った為、俺は荷物をまとめながらリフォームを勧めた。妹は少し戸惑いながら頷いた。
実家で久しぶりに兄妹で夕飯を食べた。食事を済ませ、壁にもたれて座った。狭い。と思っていた居間が、こんなに広かった事に今気付いた。その人の大きさや家の大きさに気付くのは、いつでもその人やその家の住人を失くした時だ。と、どっかで覚えた教訓を実感した。
それから何年か後に結婚して子供ができて、自分の家を持った。そして数十年が経った今、俺は自分の家で介護ベッドに寝ている。ガラス越しに見える裏庭の松を見ながら、いつかの教訓を思い出した。
「なんか、ずるいな」
と呟きながら、慣れない手紙を書いた。
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