雨音

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雨音

寒い。真冬だからだろう。それに雨も降っている。 そんな中、何故俺のような子供が外にいるかって?単純な話だ。家に入れねぇんだよ。 鍵を無くした訳でもないし、鍵を持たないままでかけて戸締りされてしまった訳でもない。 かといって親がいない訳でもない。 父親が女を連れ込む時は、俺は外にいなくてはならない。何時間も、鞄を持ったまま。ご飯もなし。 だから雨の中、体を温めるために走った。いつものあの公園へ。 あの公園の高台の上で町や遠い海を眺めるのは何よりも好きだった。 それぐらいしか心が休まらなかった。 母親は3年前、俺がまだ6歳にもなってないころ、死んだ。 母親もろくでもないクソ野郎で、俺を拒否して殺そうとした。あの時飛んできた包丁は、確実に俺に狙いを定めていた。避けなければ頭部に刺さっていただろう。 父親は酒に溺れた女好きで、いつも吐き気がするほど酒の匂いがする。その匂いを漂わせてこちらに近づき、殴ってくる。そして女や酒に金をつぎ込んで、俺には何も買ってくれやしなかった。 俺には妹がいたはずなんだ。でも、母親はミルクを欲して泣き叫ぶ妹を放置して遊び歩いていた。俺は家の金をかき集めてミルクを買い、まだ読めない漢字の表示に苦戦しながらミルクを作った。そして少しずつ飲ませた。 妹は何とか育った。でもある日突然、妹は高熱を出した。色んな人に助けを求めた。親は取り合わない。病院はどこか分からない。病院を探して走り回った。でもなくって、妹は高熱に耐えられずに死んだ。 俺は自分の無力さを呪った。そして、 大人を憎んだ。 高台の階段を登りきった。このどす黒い雲の上に、妹はいる。 手は届きそうで届かない。妹だけが俺の支えだったのに。 そんな時、後ろから足音が聞こえた。振り向くとそこには俺より小さな子が泣きながら立っていた。 雨が降っていて地面が滑りやすかったのだろう。階段を登りきった時、その子は階段から滑り落ちた。 俺は考えるより先に、彼女を助けるべく走り出していた。
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