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偏食家の親友
「香奈美さんのことは、ごめんね? 言い寄られた時、美味しそうな匂いがして我慢できなかったんだ」
レオは悪びれる様子もなく言う。
「別にいいって。冷めてたし」
悪びれた風でないレオに腹が立ち、そっけなく返す。
「そう言いながら、怒っているじゃないか」
レオは困ったように笑う。
「あぁ怒ってるさ。でも勘違いするな、怒っているのはお前に対してじゃない」
「へぇ、じゃあ、誰に対して?」
「香奈美に対してだ。おかげで半年も時間を無駄にした」
俺の言葉に、レオは口元に手を添えてクスクス笑う。
「君は本当に面白いね。だからこそ、こうして親友でいられるのだけれど」
レオはそう言って紅茶をすする。
「なぁ、聞いていいか?」
「なんでもどうぞ」
俺はお言葉に甘えて、なんでも聞こうと改めて思った。こいつから聞く話は、小説のいい題材になることが多い。
「香奈美はお前を本気で愛していたか?」
レオは眉間に皺を寄せ、考える素振りを見せる。
「うーん、正確には、僕の顔を愛していたよ」
「やっぱり碌でもない女だったな。あいつは、うまかったか?」
「うん、美味しかったよ。とっても」
レオは恍惚の笑みを浮かべて言う。虫も殺さないような顔をして、偏食家で変態ときた。だからこそ、俺はこいつの親友でいるわけだが。
「君の周りって、美味しそうな人間がたくさんいるよね。羨ましいな」
「どうでもいいが、粗悪な食事はよした方がいいぞ」
俺が喉を鳴らすように笑いながら言うと、美しい偏食家は露骨に嫌そうな顔をした。
それがおかしくて、俺はまた笑った。
「そういう君も、僕の話を聞きながら悪趣味な小説を書くのをよした方がいい」
今度はレオが笑い、俺が不機嫌な顔をした。
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