失恋

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失恋

「和樹くん、ちょっといい?」 大学の帰り、図書館に行く途中で俺は彼女である香奈美に呼び止められた。彼女はご自慢のロングストレートの黒髪を弄りながら、俺を見上げている。香奈美がこのような仕草をする時は、緊張したり気まずい思いをしている時だ。 「なに?」 俺はぶっきらぼうに返す。 「私と、別れてほしいの……」 香奈美は俯き気味になりながら言う。 正直、俺もそろそろ潮時だと思っていた。 「いいよ。それじゃ、俺は急いでるから」 「え……?」 ポカンと大口をあけて間抜け面をする香奈美を置いて、俺は図書館へ向かう。 挨拶が遅れたな、俺は淀名和和樹。偏差値低めの大学2年生だ。背は178センチ、容姿は……渋谷なんかを歩いてたらモデルにスカウトされるレベル、とだけ言っておく。 ちなみに好きな女性は黒髪ロングが似合う清楚系で、自分に一途になってくれる女性だ。察しのいい奴は、この自己紹介で何故俺が別れを気軽に了承したのか分かってくれるだろう。 香奈美の容姿は黒髪ロングが似合う清楚系で、正直、一目惚れだった。だが付き合って半年、あいつが他の男に目移りしているのを薄々感じていた俺は、冷めていた。 さて、つまらない話はここまでにしようか。ちょうど図書館にも着いたところだしな。 館内に入れば、古本の匂いとひんやりとした空気に包まれる。俺はお目当ての本があるであろう本棚へ向かう。途中、ひそひそ話が聞こえてくる。流石に内容までは分からないが、静まり返った図書館では、声をひそめても聞こえてしまう。 なんとなくそちらを見れば、同じ大学の女子が本棚の影に隠れて何かを見ながら話しているようだ。 その“何か”は確認しなくても分かる。同じ大学のレオに違いない。レオは日本人と西洋人のハーフで、大学1の美貌を持っている。はちみつ色のウェーブがかかった髪に、透き通るような白い肌、海のように深い青の瞳、華奢なくせに身長は185センチもある。日本人と西洋人のいいとこ取りをしたら、きっとこうなるのだろう。 俺はお目当てである太宰治の人間失格を手に取ると、彼女達の目線の先にある読書スペースに行く。そこには案の定、レオがいた。彼は長い足を組み、男の俺でも見とれるような所作で、ページをめくる。 なんとなく女子達がいる本棚を見ると、ひとり増えていた。 あとから来た女子……香奈美と目が合う。香奈美は驚いた顔で俺を見ると、慌てた様子で踵を返した。少し離れたところから司書の注意する声が聞こえ、俺は本を広げて小さく笑った。
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