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それは、立派な黒いグランドピアノだった。
なんでこんなところにいきなり。
と思ったところでちょうど、そのすぐ横に掲げられているカラフルなポスターに視線が止まった。
『心を繋ぐ、ストリートピアノ』
『あなたの音色が、たくさんの人を幸せにします』
····とか何とか。
とにかくハッピーな字体でごちゃごちゃ色々書いてあった。
つまりは通りすがりの人が自由に弾くピアノってことらしい。
案外こういう説明書きにはしっかりと目を通してしまう真面目な私は、いつの間にかしっかりとそのポスターを確認してしまう。
それによると、鉄道会社とイベント会社が主宰しているその企画では、一般人の所有する、古くなったり壊れたりしたピアノを譲り受けて整備し、こうして再利用しているらしい。
蘇ったグランドピアノを通じて、音楽の素晴らしさと人々の幸せを繋いでいく、という趣旨。
置かれた場所で、静かに息を潜めて。
黒く艶やかに光っている、その存在。
いつから置かれているのだろう。
今日は、誰かがこれを弾いたのだろうか。
つかのま、そんなことを想像していた。
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