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2、
毎日、電車で通勤している。
会社の最寄り駅から自宅近くの駅までは、急行で約10分。
わりと都市部に近いところにそこそこの家賃で部屋を借りられた私は、けっこう幸運だったと思う。
深夜の街を、歩いていく。
ビルが立ち並ぶ谷間、酔っぱらいがたむろする繁華街。
横断歩道の白いラインだけを踏むなんて子供じみた遊びを私は絶対にしない、と心の中で呟きながら、丁寧に白いところだけを渡っていく。白と黒。黒と白。交互に並んだおかしな模様。
5度目の不倫を目撃した夜。
会社を出た私は10分ほど歩いたところですぐに駅に着いた。
午前0時を過ぎた駅は、さすがに人通りが少なくなっていた。
ピン、ポォォン、と駅のホームで列車の到着を知らせるベルが鳴る。
(·····お腹、空いたなぁ)
10月になって、街は突然冬の顔を覗かせるようになった。
朝晩の空気が少しずつ冷たくなっていく。
構内のコンビニにも、いつの間にかおでんの幟がはためくようになって、人々はそこかしこに温もりを探すようになるのだ。
―――みんな、どんな場所に帰るんだろう。
時々こうして、考えがさまようこともある。
私は何の気なしに、もう閉まってしまったみどりの窓口に視線を向けて、ひらめいた。
そうだ、今日は冷蔵庫に入れておいたアボカドを食べよう。
とろりとした芳醇な果実に、少し酸味のあるシーザードレッシングをかけて食べる。
トマトもあったかもしれない。
適当に切って、入れよう。
良い判断だ。
夜、何を食べたらいいか分からない時、私は不安になる癖があった。
今夜は、自分の心にしっかりとした方向性があることを感じて、妙に安心した。
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