消えない古傷

1/3
前へ
/3ページ
次へ
 ようやく目を覚ませる。  そんな気がした……はずだった。  僕は一人、自室のカーテンを開き光を浴びた。  体を優しく照らしてくれたその光は、いつも僕に“朝”を知らせてくれる。   「……おはよう。今日も静かだねぇ」  ベッド脇にある小さな観葉植物へ声をかけ、葉を人差し指でそっと撫でるのが日課だ。  針音の無い壁掛け時計に目をやると7と12を指し示している。  僕は食事を摂るため部屋のドアを開けた。 「おはよう! 今日も1日楽しくね!」  そう書かれた付箋のついたラップを剥がし、用意されていた火のしっかり通ったオムライスへとスプーンを入れる。  「……うん。美味い」  母の手料理はいつも美味しい。  ただ、かれこれ三年。僕は母の顔を見ていない。  
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加