消えない古傷

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「……お兄ちゃん。(ひろと)が事故に巻き込まれたって……」 「え……」  ヒロトは僕の二個下の大学生だ。とは言っても僕の中では幼さの残る中三の受験生のまま。  学費のために深夜までバイトをして朝帰りも珍しくないが、今日に限って早く帰れたらしい。 「……信号待ちしてたら飲酒運転の車に追突された車に轢かれたみたいだって……」 「……」 「意識不明だって……どうする?」  《一緒に病院へ行く》か、《自室で引きこもったまま》か。  普通なら即病院だ。  しかし、僕の気持ちは《自室にいる》方が強かった。  それほどまでに、世間を、社会を怖がっている事を今更になって改めて思い知った。 「……お父さんと先に行ってるから。気持ちの整理が出来たら来なさい」  母の……母さんの言葉は久しぶりに冷たかった。   ◇ 「ひろと……ごめんな」  (ひろと)が事故に遇ってから二週間。  僕は涙を流しひろとへと謝罪した。  結局僕はひろとに会わないまま二度と会えなくなった。  『家族のため』  それでも外に出られないほど中学生の時に受けたイジメが僕の心を苛めていた。 《イジメられる奴が悪い》  間違ってない。    が  正しくもない。 《イジメる奴が悪い》  間違ってない。    し  正しいと言いたい。  アイスが溶けたら溶けた原因を探り、溶かす原因を排除・解決するだろう  しかし、溶けたアイスは廃棄して終わりの世界  捨てられたアイスを拾う蟻は極めて少なく、溶けたアイスは固めても完全には戻らない。  蟻を増やすのもいいが、アイスを溶かす事の無い世界になって欲しい。  そんな事を月明りの“朝”に思う。
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