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大切な跡取りとあって、皆に大事に育てられた甲虫は、自然優しい性格に成り、父親譲りの武芸の強さと、母親譲りの頭脳で、甲虫陣営の将来は安泰と言われた。
長女と母親の歳が変わらなかったから、二匹の女性は特に可愛がり、甲虫は愛情に包まれ育っていった。
ある日甲虫は言った。
「母上様、麿は母上様がよく吹いている、笛が欲しゅうございます」
母親はそれを受け、腕の良い職人に、飛び切りの笛を作らせた。
また別の日に、甲虫は言った。
「姉上様、麿は姉上様が時々叩く、鼓が欲しゅうございます」
姉は特別に高価な鼓を取り寄せて、甲虫に与えた。
甲虫は幼い頃から音楽に興味を示したが、周囲はというと取り分け危惧はせず、子供に与える玩具の感覚で楽器を持たせていた。
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